幻冬舎とサイバーエージェントの両社長による「人は自分が期待するほど、自分を見ていてはくれないが、がっかりするほど見ていなくはない」(見城徹、藤田晋)を読みました。
ゼロから自分の会社を立ち上げた経営者が互いに語る言葉はなかなか味があります。本書は見城さんが書いた、様々な想いを綴った短いメッセージを受けて、藤田さんが世代を超えて自分なりの解釈をつけていく、というスタイル。対談とも違う、二人の書簡交換のようなユニークな構成で35の言葉が展開される中から幾つかご紹介します。
出版界とIT業界、二人のカリスマ経営者によるベストセラー「憂鬱でなければ仕事じゃない」に続く待望の第二弾です。若いビジネスマンに働く上での精神的心構えを熱く説いて大反響を読んだ前作から、さらにパワーアップ。ビジネスだけにとどまらず、より日常の局面において、人としてまっとうに生きていく上で、何が大切で何が無駄かを、見城氏による35の言葉を藤田氏が紐解きながら読者に提示していきます。(アマゾンより)
挑戦するから成長する
多くの人が色々な表現で同じようなことを言っています。ということは、これらのメッセージには本質的な意味が込められているということでしょう。中でも、過去の成功体験にしがみつくことのリスクは多く耳にします。見城さんは、「成功は失敗の基」という言葉でこのことを説きます。
p.84 成功体験を打ち壊さなければ、先に進むことはできない。それは苦しいことである。人間は、昨日と同じ今日のほうが、楽だからである。昨日と違う今日は、辛いのだ。
今日も明日も明後日も、昨日と同じだと思うことは、油断であり怠慢である。それが積み重なって、いつか失敗どころか、大崩壊を起こす。(見城)p.198 時とともに社会は変化し、歴史は容赦なく前に進んでいきます。そんなベルトコンベアの上を歩んでいるような状態で、足を止めると、自分は立ち止まっているだけだと思っても、実際には後退しているのです。(藤田)
過去の成功体験、いわば”comfort zone”、居心地の良い場所に留まっている方が楽なので誰もがついそうしてしまいがちですが、自分の勝ちパターンにだけ固執していると刻々と変化し続ける世界の流れに柔軟に対応できません。新しい一歩を踏み出す勇気は短期的にはリスクを取るように見えますが、中長期的にみると「チャレンジしないリスク」の方が大きいもの。ビジネスの世界に身を置く以上は、業界にかかわらず、自分のスキルを常に向上し続けていく必要があります。これには、仕事を通じて多くの経験を積むことで成長する方法と仕事を離れて勉強する方法とがありますが、ここで1つ意識するべきことは「大きな学び、成長というものはそれまでの延長線上にはない」ということ。
p.36 自分とは全く違う異物には、誰でも動揺や反発を感じるものだ。気持ちの揺れが収まった時、視界にようやく対象が本来の姿を現す。異物を飲み込むのは辛いけれど、それを消化できた時、想像を絶する結果が待っている。(見城)
UCLAのビジネススクールでは“Pushing yourself out of comfort zone”というメッセージ、見城さん流に言わせれば「居心地の悪いところに宝あり」となります。あえて、やったことのない新しい分野、お客様、ビジネスモデル、技術といったものに挑戦するとき、当然ながら色々と困難な課題に突き当たりますが、明けない夜はないように、いつまでも続く上り坂はありません。必ずふっと身が軽くなるときが訪れて、そのとき初めて自分が「異物」だと思っていたものが確実に消化され、自分自身の一部になっていることに気づくもの。
仕事は次から次へと与えられるのでそれをこなしているだけで精一杯という状況がありがちですが、それは人からお金を頂く以上は当たり前のこと。他の人と同じことをただ漫然とこなすのではなく、時に目先の仕事からふっと頭を上げて少し遠くに目線をやることで、次に自分がチャレンジするべき大きなテーマについて自分の頭で考える時間を持つことが大切です。
夢中になれるものを探す
大きなテーマを探すとき、幾つかの観点がありますが、詰まるところ最も大事なことは「夢中時間率」をいかに上げられるか。「居心地の悪いところに宝あり」とは言え、やりたくもない仕事を歯を食いしばって頑張ったところで辛いだけで先は見えています。
目先の仕事は選べなくても、中長期的に自分が目指すテーマを選ぶ際は、今まで自分が積み上げてきたスキルや人脈、得意なことからはいったん離れて、どんな時に自分は夢中になれるか、をとことん突き詰めてみることが大切。過去を振り返ってみて、自分はどんなことをしている時が楽しいか、あるいは逆にどんなことが苦痛か、といった自分自身についての理解を深めることで、きっと幾つかの軸が見えてきます。
p.182 本来熱狂は、集団を襲うものだ。熱狂が過ぎ去り、あたりに人がいなくなっても、自分の中に火種を見出せたら、それこそは本物の情熱である。(中略)
大企業だからとか、安定しているからという理由で勤め先を決めるなど、馬鹿げている。見栄や安定で、熱狂できない仕事を選ぶことは、ひどく退屈で辛いことだ。熱狂は退屈も苦痛も、はねのけてくれる。そして必ず、他の追随を許さない大きな実りをもたらしてくれる。(見城)
夢中になれるテーマを見つけられた人は強い。はたから見れば驚くような集中力であり、継続力ですが、当の本人にしてみれば自分がやりたいからやっているだけです。人が何かに夢中になるとき、そのこと自体が好きで苦にならないという要素が少しでも仕事の中に取り込めている人は強い。あるいは、その先に掲げる目標なりゴールなりが自分にとって心からワクワクできるものだったとき、人はそこに至るプロセスが多少辛いものであっても夢中で踏ん張れるもの。いずれにしても、まず自分が夢中になれるテーマなりゴールを見つけることが非常に大事だと思います。
努力は報われる
本書のタイトルにもなっている「人は自分が期待するほど、自分を見ていてはくれないが、がっかりするほど見ていなくはない」について。
p.179 人の心は、弱いものだ。努力を重ねても報われないと、くじけそうになる。しかし、そこでやめると、すべては終わってしまう。それにどこまで耐えられるかが、ビジネスマンの気骨である。大きく飛躍した人は、例外なくあきらめず、努力を続けてきたはずだ。(中略)人は自分の努力を、誰かにわかってほしいと思う。自分に対して甘く、すぐに過剰な期待を抱く。期待が外れると、今度はもうやめてしまおうかと考える。
「人は自分が期待するほど、自分を見ていてはくれないが、がっかりするほど見ていなくはない」という考え方は、ぶれやすい心に安定をもたらす。それは過不足のない、とても現実的な考え方だ。(中略)この考え方をよくわかってさえいれば、今はうまくいかない仕事も、そのうち必ずうまく流れ始める。(見城)
内田樹さんは、「これだけ努力したんだから、遅滞なく報酬をよこすように、納品したらすぐ金払え、「キャッシュ・オン・デリバリー」っていうのは、要するに相手を信じていない人間の言いぐさだからね」と語っていましたが、努力に対するご褒美というものは内田さんの言うように「思いもかけないところから、思いもかけないかたちで」やってくるものなんだと思います。
目先の利益に振り回されず、自分がやりたいこと、やるべきと信じることを見出して夢中で取り組むことができれば、きっとご褒美は後からついてきます。そう信じて今までやってきましたし、これからも肝に銘じていきたいと思います。