ペンシルバニア大学ウォートン校史上最年少の終身教授、アダム・グラントの「GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代」は24か国語以上で翻訳され、世界中の人々の「働く意義」を変えたといわれるベストセラーだそうです。
本書では、人を大きく3つのタイプに分類して考察します。
- ギバー(Giver):人に惜しみなく与える人
- テイカー(Taker):真っ先に自分の利益を優先させる人
- マッチャー(Matcher):損得のバランスを考える人
これからの時代に成功する確率が高いのは、ギバー「与える人」というのが本書の主張です。
ギバーに見られる行動の特徴と効果について、特に共感したのが「相手側の視点から考える」と「アドバイスを求める」の2点。
相手側の視点から考える
p.226 交渉上手はかなりの時間を費やして、「相手側の視点」を理解しようとしていることがわかった。交渉がうまい人の発話のうち21%以上を質問が占めていたが、それに対して平均的な人は10%以下だった。
p.306 人の視点グループは、ほかの二つのグループよりかなりうまく交渉できた。求職者の気持ちを想像するのではなく、求職者視点から見ることで、どんどん質問し、お互いのニーズをじっくり分析しようという気になったからだ。相手側の利益を理解していたので、相手にアピールするだけでなく、自分の利益にも沿った提案をすることができた。(中略)
双方の利益が対立する短期間の交渉においては、相手の心ではなく頭のなかに注目することで、大いにギバーの有利になる。
交渉というと、いかに自分の主張を認めさせるかという観点で考えがちですが、相手は人間。より交渉上手なやり方は、相手の立場にたってみて、その人の気持ちや利益を理解することがポイントです。
急がば回れで、相手に寄り添うことで相手への申し入れ方が変わり、交渉がスムースに行くことはよくあります。
アドバイスを求める
p.244 アドバイスを求めることは、ゆるいコミュニケーションの一形態である。誰かに何かを聞くということは、自分の自信のなさを伝え、弱さを見せることだ。
p.245 アドバイスを請われると、アドバイスする側はその問題やジレンマを相手の視点から見なければならなくなる。
p.246 人間は自分の時間、エネルギー、知識や情報を投資して誰かを助けると、相手がそれに値する人だと必死で信じようとする。
p.247 人間というのはアドバイスを求められるのが大好きなのだ。誰かにアドバイスすると、テイカーは自分が偉くなったような気になるし、ギバーは人の役に立てたような気がする。
アドバイスを求めることで、知らずのうちに相手を自分の土俵に引き込んで仲間にすることができるというのは新鮮な気づきでした。
相手やタイミングを見極めることが重要ですが、時には自分の弱さを見せることも必要ですし、アドバイスを求められる方も悪い気はしないでしょう。
与える人が成功する時代
p.309 「寛大なしっぺ返し」のルールは「良い行いはけっして忘れず、悪い行いをときどき大目に見る」ことだ。最初は協力的な態度に出て、相手が張り合ってこないかぎり、そのままの態度を維持する。相手が張り合ってきても、常に同じように張り合ってはならない。寛大なしっぺ返しでは、三回に二回は張り合うが、三回に一回は協力的な態度で応じるのである。「寛大なしっぺ返しは、しっぺ返しを簡単に帳消しにすることができるうえ、食い物にされることからも守ってくれる」と、ハーバード大学の数理生物学者のマーティン・ノバックは書いている。(中略)
人間関係や個人の評判がまる見えの世界では、テイカーがギバーにつけ入るのはますます難しくなっている。ノバックによれば、「この思いやりのある戦略こそ、今後、長いあいだ主流になっていく」という。
寛大なしっぺ返しは、他者思考の戦略である。自己犠牲タイプのギバーがいつでも人を信用するという間違いを犯しているのに対し、他者思考のギバーは信用することを基本としながらも、その行動や評判からテイカーだとわかると、ギブ・アンド・テイクのやり方を使い分ける。
幾つかのシミュレーションの結果から、適度に与える人が最も高いパフォーマンスを発揮できることがわかりました。もちろん現実社会は複雑な条件が絡み合っているので前提条件の置き方ひとつで結果も変わるのでしょうが、長い目で見て平均すると相手を信用するポジティブな姿勢の方が理にかなっているということ。
今後は、ソーシャルメディアの普及に伴って、ますます個人の評判情報が可視化されていくことを考えると、この傾向は加速することでしょう。
p.380 多くの人がギバーとしての価値観をもっているにもかかわらず、仕事ではそれを表に出したがらない。しかし、人と人とが密接に結び付いた世界で、チームワーク、サービス業、ソーシャルメディアといったことがますます重要になっていくにしたがって、ギバーが人間関係や個人の評判を築き、成功を拡大させるチャンスが広がっているのだ。(中略)
テイカーが成功を、人を出し抜いて優れた成果を達成することだと考えることに対し、マッチャーは成功を、個人の業績と他人の業績とを公正に釣り合せることだと考える。
一方、ギバーは成功を、他人にプラスの影響をもたらす個人的なものだと考えるのだ。この成功の定義は、働く人の雇用スタイル、評価、報酬、昇進のやり方を根本から変えてしまう。個々の従業員の生産性だけでなく、この生産性が周囲の人びとに与える影響にも注意を払わなければならないということだ。成功のイメージが、「個人の業績+他人への貢献度」で成り立つとすれば、職場でもギバーになる人が増えるかもしれない。テイカーもマッチャーも、個人と共同体両方を高めるため、他者を思いやらざるをえないだろう。
p.264 ギバーが燃え尽きるのは、与えすぎたことよりも、与えたことでもたらされた影響を、前向きに認めてもらえなていないことが原因なのである。ギバーは、与えることに時間とエネルギーを注ぎ込みすぎるせいで燃え尽きるのではない。困っている人をうまく助けてやれないときに、燃え尽きるのである。
p.382 起きている時間の大半を仕事に費やしている私たちが、ほんの少しでもギバーになったら、もっと大きな成功や、豊かな人生や、より鮮やかな時間が手に入るだろうか。それは、やってみるだけの価値はある。
働き方改革や、それに伴う生産性に対する意識の高まりが感じられる昨今ですが、企業における人事考課の基準を単なる成果主義ではなく、「個人の業績+他人への貢献度」の両軸で評価するように変えることで従業員の意識や行動が変わり、ひいては企業の業績にもプラスに働くことが実証されて当たり前になっていくといいなあ。
そうなると、職場はもっと楽しく生産性の高い場所になるのだと思います。