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22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる

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読書メモ
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最近、メディアで成田悠輔さんをよく見かけます。

どんな人なんだろう?と興味を持って、著作を手に取ってみました。

まず、その経歴がなかなかすごい。

ギャンブル狂で酒好きの父と、借金返済に奔走する母とともにワンルームに家族4人で暮らした幼少期からどうやってこんな道に進んだのか気になります。

夜はアメリカでイェール大学助教授、昼は日本で半熟仮想株式会社代表。専門は、データ・アルゴリズム・ポエムを使ったビジネスと公共政策の想像とデザイン。ウェブビジネスから教育・医療政策まで幅広い社会課題解決に取り組み、企業や自治体と共同研究・事業を行う。混沌とした表現スタイルを求めて、報道・討論・バラエティ・お笑いなど多様なテレビ・YouTube番組の企画や出演にも関わる。東京大学卒業(最優等卒業論文に与えられる大内兵衛賞受賞)、マサチューセッツ工科大学(MIT)にてPh.D.取得。一橋大学客員准教授、スタンフォード大学客員助教授、東京大学招聘研究員、独立行政法人経済産業研究所客員研究員 などを兼歴任。内閣総理大臣賞・オープンイノベーション大賞・MITテクノロジーレビューInnovators under 35 Japan・KDDI Foundation Award貢献賞など受賞。

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データに基づく公共政策が専門とのこと。

もう30年近く前、今のようにエクセルで誰でも簡単に多変量解析ができるようになるずっと前の話ですが、計量政治学の研究室に所属してメインフレームの富士通マシンに秒課金のTSS端末で繋いでオープンリールに記録されたデータと統計学を用いて理想的な選挙制度や社会の仕組みをあれこれと夢想していた僕としては彼のアプローチには非常に親近感を感じます。

本書のコンセプトはこんな感じ。

断言する。若者が選挙に行って「政治参加」したくらいでは日本は何も変わらない。

これは冷笑ではない。もっと大事なことに目を向けようという呼びかけだ。何がもっと大事なのか? 選挙や政治、そして民主主義というゲームのルール自体をどう作り変えるか考えることだ。ゲームのルールを変えること、つまり革命であるーー。

22世紀に向けて、読むと社会の見え方が変わる唯一無二の一冊。

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ちょっと斜に構えた感じで小気味よく論理が展開される本書ですが、根底にあるのはデータとアルゴリズムのベースとして最適化された社会の仕組みを模索する研究と言えるでしょう。

成田さんがユニークなのは、そのデータの選び方とロジックの独創性です。改めて民主主義の本質を見つめ直しながら、最新のテクノロジーを活用した次世代の民主主義のあり方について壮大な思考実験が展開されます。

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暴れ馬・資本主義をなだめる民主主義という手綱

本書の前半はデータに基づいて今の世界の民主主義が置かれている状況を成田さんの視点から解き明かします。

 その躁鬱的拮抗が普通選挙普及以後のここ数十年の民主社会の模式図だった。資本主義はパイの成長を担当し、民主主義は作られたパイの分配を担当しているとナイーブに整理してもいい。単純すぎるが、単純すぎる整理には単純すぎるがゆえのメリットがある。
 しかし、躁鬱のバランスが崩れてただの躁になりかけている。資本主義が加速する一方、民主主義が重症に見えるからだ。今世紀の政治は、勃興するインターネットやSNSを通じた草の根グローバル民主主義を夢見ながらはじまった。日本でも、2000年代にはインターネットを通じた多人数双方向コミュニケーションが直接民主主義の究極形を実現するといった希望に溢れた展望がよく語られた。
 だが、現実は残酷だった。ネットを通じた民衆動員で夢を実現するはずだった中東民主化運動「アラブの春」は一瞬だけ火花を散らして挫折し逆流した。むしろネットが拡散するフェイクニュースや陰謀論やヘイトスピーチが選挙を侵食し、北南米や欧州でポピュリスト政治家が増殖したと広く信じられている。トランプ前米大統領やブラジルのボルソナロ大統領などのお笑い芸人兼政治家たちが象徴だ。
 民主主義の敗北に次ぐ敗北。21世紀の2年間が与える印象だ。「民主主義の死に方」「民主主義の壊れ方」「権威主義の魅惑:民主政治の黄昏」といった本が、ふだんは控え目な見出ししか付けたがらない一流学者たちによって次々と英語圏で出版されたこともこの印象を強めている。

p.44

ここで指摘されている「資本主義の加速」と「民主主義の後退」は、ここ10年くらいを振り返ると誰もが漠然と感じているのではないかと思います。

本書がユニークなのは、こうした事実について様々な角度からみたデータを用いて実証しようとしているところ。

 民主主義こそ21世紀の経済を悩ませる問題児であるようだ。私とイエール大学の大学生・須藤亜佑美さんが独自に行なったデータ分析の発見である。

  • 1~4のような民主主義への脅威の高まりが、もともと民主主義的だった国で特に高まっている。
    1. 政党や政治家によるポピュリスト的言動
    2. 政党や政治家によるヘイトスピーチ
    3. 政治的思想・イデオロギーの分断(二極化)
    4. 保護主義的政策による貿易の自由の制限
  • 世論に耳を傾ける民主主義的な国ほど、今世紀に入ってから経済成長が低迷しつづけている。
  • 民主国家ほどコロナで人が亡くなり、2019年から2020年にかけての経済の失墜も大きかった。
  • 民主国家の企業ほど資本や設備への投資が伸び悩んでいる。
p.46

例えば、上図のとおり、各国の民主主義指数と平均GDP成長率には負の相関があることが示されます。

この民主主義指数がどんな変数によって作成されているか、また単に相関関係があることだけでは民主主義が経済の停滞を引き起こしているという因果関係を示していない、といった詳細が気になる方向けには成田さんは自身の論文”The Curse of Democracy: Evidence from the 21st Century”のリンクを紹介しています。

他にも、あえて突っ込まれそうな論点については常に先回りして解説したり言い訳したりするあたりも本書の醍醐味の1つです。

 とはいえ、この本はちょっとただのビジョンすぎる気もする。「おしゃべりばかりか。ちょっとは具体的な取り組みや実践を見せてみろ」と言われそうだ。だが、そんな21世紀の人類っぽいことは言わないでほしい。

 歴史を振り返っても、ルソーの『社会契約論』からマルクスの『資本論』まで、結果として最も影響力を持った構想や思想は最も実践が伴っていないものだという経験則がある。自室や図書館で鬱々と妄言を綴る無力で口だけの想像者たちだ。この本はその悪しき伝統に倣ってみたい。口だけの私が実践者に見下され、嘲笑され現実に追い越されるのを楽しみにしている。

 瀕死の民主主義を追い詰める「黒船」を自分たち自身で作り出せるのかが問われている。突っ込みどころだらけの惨めなこの本の試みが、そんな黒船のトイレの部品くらいにはなれることを願う。

p.242
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「劣化」の解剖学:扇動・憎悪・分断・閉鎖

民主国家ほど政党や政治家によるポピュリスト的言動などが顕著となり、経済成長が停滞してきた理由として、本書ではインターネットによる情報流通により偏った情報が必要以上に増幅されて共有されてしまう状況を指摘します。

 では、21世紀の最初の2年間の一体何が、民主国家を失速させたのだろうか? 先ほどの21世紀の回想とデータからヒントが浮かび上がってくる。インターネットやSNSの浸透に伴って民主主義の「劣化」が起きた。閉鎖的で近視眼的になった民主国家では資本投資や輸出入などの未来と他者に開かれた経済の主電源が弱ったという構造だ。

p.61

 しかし今やメディアはソーシャル・パーソナルであり、リアルタイムであり、そしてグローバルである。あらゆる人がグローバルマスメディアを所有している今では、あらゆる政治家がポピュリストにならざるをえない。トランプのようにPV (PageView)が跳ねたポピュリストの声は、太陽の光のように年中無休で人類の頭上に降り注ぐ。技術進化で速度と規模を獲得したポピュリストの光が選挙と政治を焦がしている。
 問題は、情報通信環境が一変したことそのものではない。それは人類の避けがたい進化だ。本当に問題なのは、情報通信環境が激変したにもかかわらず、選挙の設計と運用がほとんど変化できていないことだ。

p.82

そして、真の原因は民意を正しく反映できない選挙制度にあると説きます。確かに、選挙制度の見直しという議論はかねてより(僕が学生時代に所属していた小林良彰研究室でも選挙制度の不備を補完する様々な方策を検討・提案しました)なされてきていますが、選挙区の定数や区割りの話を中心とした議論に集中しがちです。

本書がユニークなのは、インターネットでも投票できるようにしようとか、寿命が長い(=若い)人ほど多くの投票権を持たせよう、というような次元ではなく、そもそも何年かに一度、政治家を選んで国政を託すという今の選挙制度自体が時代遅れであり、最新のテクノロジーを活用すると全く違った民主主義の実現方法が見えてくる、というもの。

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偽善的リベラリズムと露悪的ポピュリズムのジェットコースター

 人間は意識的に意見を捻り出そうとすると、周りの声やその場の情動・情報などに流されてしまう動物だ。 会議室で人に意見を求めると、当たり障りのないどこかで聞いたような話をするか、隣の人にあいづちを打つか、妙に逆張りしてみるかくらいしか反応が見られない。 で、打ち上げに移ってひとしきりグッタリしたあたりから、みんな素直な自分の言葉で思いの丈を話し出す。問題なのは、そんなシャイで、その場をとりつくろってしまう人間の弱さが、マス・ソーシャルメディアによって集約され増幅され、そのまま選挙に吸収されてしまっていることだ。(中略)
 こうした環境下では、政治家は単純明快で極端なキャラを作るしかなくなっていく。キャラの両極としての偽善的リベラリズムと露悪的ポピュリズムのジェットコースターで世界の政治が気絶状態である。
 民主主義が意識を失っている間に、手綱を失った資本主義は加速している。

p.83

極端な意見があたかも主流のように見えたり、自分の意見に近い主張やニュースに偏って優先的に表示されがちなSNSの負の側面は、結果として視野が狭く近視眼的な有権者を生み出すというのは、昨今のBrexitやトランプ政権の誕生等の流れを見ているとうなずけます。

一方で、民意を反映する手段である選挙制度は基本的に100年以上そのままで進化していません。このギャップが現代の民主主義を劣化させている原因であると成田さんは主張します。

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民主主義とはデータの変換である

では、民主主義とはいったい何だろう?という根本的な問いかけに戻ります。

データサイエンティストらしく、成田さんは民主主義とは民意というINPUTに対して政策というOUTPUTを出すためのデータ変換の仕組みと定義します。

すると、当然のように民主主義の根幹として誰もが疑わない「選挙」という仕組みそのものが、このデータ変換装置としてあまりにプリミティブであり、改善の余地が大きいと指摘します。

 では、なぜ選挙という雑なデータ処理装置がこれほど偉そうに民主主義の中核に鎮座しているのだろうか?選挙が使うデータの質や量がいいからではない。立候補した少数の政治家・政党の中から好みの一つを選んだだけの投票データは、投票者の意思のほんの一部しか反映していない貧しいデータなことは誰の目にも明らかだろう。データ処理の方法が洗練されているからでもない。多数決のようなよく使われる集計ルールは欠陥だらけなことがよく知られている。

 そんな貧しさや欠陥にもかかわらず選挙を私たちが受け入れているのは、数百年前の段階でギリギリ全国を対象に設計・実行できたデータ処理装置が選挙だからだろう。そして、法律や歴史を通じて正統性や権威性をまとったからだろう。はじめとおわりがはっきりしていて、勝者と敗者がきっぱり決まるゲームのような透明性ゆえに、暴力や内戦による血みどろの意思決定を避けられたことも大きかったに違いない。逆に言えば、今ゼロから民主主義を制度化するとしたら、選挙とは違う何かが出てくるに違いない。民主主義が用いるデータの質や量、そしてデータ処理の方法にはいくらでも改良の余地がある

p.166

ここで、ようやく彼が考える「22世紀の民主主義」の形、選挙制度に代わる新しいデータ変換装置のあり方についての考察が示されます。

ただ、同じ問題を取り巻く文脈や環境が変化したことで、同じ問題が違う表情を見せはじめた。数十年前までは、問題を解決する具体的で技術的に実現可能な代替案がなかった。 100年前だったらどうしようもなかっただろう。 でも、今は雲行きが違う。 意思決定のために使える情報・データの質量や計算処理能力は桁がいくつも変わってきた。 それを使って意思決定するアルゴリズムを支えるアイデアや思想・理論も貯まってきた。

p.241

その提案は本書を読んで頂くとして、あまりに斬新すぎて実現性が見えないというか、そのゴールに行き着くためのステップが重要な反面、そこに触れられていないため、どうにもモヤモヤ感が残ってしまいました。

一方で、ついこの間まではSFの世界だと思っていた自家用車の自動運転やドローンによる宅配等が現実化している世の中を見ていると、加速するテクノロジーの進化と民主主義の仕組みの乖離は日に日に増大していること、それが彼の指摘するような民主主義の劣化に繋がっているという危機感も痛感します。

民主主義のINPUTとしてどんなデータを使うべきか、そのOUTPUTをどんなアルゴリズムで導出するか、といった観点から今の選挙制度を見直すことは非常に重要です。同時に、そうした仕組みを変えられるのは今の政治家であり、自分たちにとって不利な仕組みは政治家には実現できない、というジレンマも本書で語られている通り。

本書にはその答えは書かれていませんが、こうした危機感を共有し、一歩ずつ改善していく努力を怠らないことの重要性を再認識しました。さて、何から手を付けていけばよいのでしょうか。

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