読書メモ

哲学と宗教全史

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立命館アジア太平洋大学学長の出口治明さんによる「哲学と宗教全史」が面白かったです。

哲学といえば大学生の時にゼミで専門の計量政治学に手を付ける前に、方法論ではなく「あるべき社会の姿」について考えを深めるために、ホッブズやロック、ロールズ等の考える社会についてゼミの仲間と議論した程度で、それ以外は世界史の教科書で出てきた知識があるくらいでした。

宗教に至っては、妻や子どもたちは中高一貫の私立校の中でキリスト教に触れる機会があったのに比べると、僕は今まで冠婚葬祭くらいの縁しかありません。

ただ、長い歴史の中で脈々と受け継がれて発展してきた哲学と宗教には、今の科学技術でも明かすことのできない人間の本質について考える深い知恵の蓄積があるはず。そんな時に手にしたのが本書でした。

僕のような入門者が、今まで世界でどんな経緯で様々な哲学や宗教が生まれ、相互に影響し合いながら発展してきたのか、といった大きな流れを掴むのには本書はピッタリでした。

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世界史の教科書の断片的な知識を繋ぎ合わせる

世界史で一通り知識として学んだ哲学や宗教ですが、授業では著名な哲学者の名前、宗教と基本的な考え方、スタンスが形容詞的にくっついて紹介されている程度でした。

また、教科書では時代ごと、地域ごとに狭い範囲で知識が整理されていますが、例えば同じ時代に別の場所でどんな人達がどんなことを考えていたのかを横串を刺して考える機会がありません。

本書では、哲学と宗教にフォーカスを当てて、ゾロアスター教の登場から始まって、ギリシャでの哲学の誕生、ソクラテス、プラトン、アリストテレス、そして同時代の孔子、墨子、ブッダ、マハーヴィーラといった具合に、地域を横断しながら徐々に様々な考え方が積み上がっていく様子が描かれています。

1つ1つの哲学や宗教の解説はごく基本的なレベルですが、端的に分かりやすく説明されており、大きな流れを理解するためには十分です。また、地域をまたがった時代ごとの年表が幾つか収録されていたり、より深く学びたい時に参考になる原著や解説本が多数紹介されているのも親切な構成です。

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今こそ哲学や宗教から学ぶべき知恵がある時代

p.453 振り返ってみると、神の存在を考え出した人間が、やがて神に支配されるようになり、次に神の手からもう一度人間の自由を取り戻したところ、その次には自らが進歩させた科学に左右される時代を迎えています。それでもこの時代に人間が招き入れた科学的で冷厳な運命を受け止め、それを受け入れてなおかつ「積極的にがんばるぞ」と考える人達が少なからず存在しているのです。

 そのような意思や意欲ある人間の存在が、巨人の肩の上に21世紀の新しい時代を見通せる哲学や思想を生み出してくれるのかもしれません。

 僕たちは今、時代の哲学や宗教の地平線の前に立っているのかな、と考えています。

科学技術が進歩し、人間のからだから宇宙の構造に至るまでおおよそのことは分かってきたつもりになってしまいそうですが、実はこの世界について人間が理解できていることは未だにほんのごく僅かでしかありません。

先日読んだSF小説「三体」を読むと、未来からの視点や宇宙から観た地球といった視点で考えても、世界はまだ謎だらけだなと改めて思います。

一般的にはとっつきにくい、深遠な哲学や宗教の世界への入門書として、本書でまず全体感を把握したうえで、気になる部分について深めていくための導入には最適な一冊だと思います。

【著者からのメッセージ】
現在はテロが横行し、難民問題が世界に拡がり、さらにインターネット社会の到来がもたらした、匿名による他者への誹謗や中傷が人間に対する偏見と憎悪を増幅しています。
このような時代に、哲学や宗教は力になってくれるのでしょうか。
新しい令和の時代を迎えた今、そのことについて原点に立ち戻って考えてみたいと思います。
あるとき、哲学者になった僕の友人に、「なぜ哲学を専攻したのか」と尋ねたところ、彼は「世界のすべてを考える学問という点に惹かれた」と答えました。
現代の学問は微に入り細を穿(うが)ち、あまりにもタコツボ化しているように思われます。
世界をトータルに理解する必要性はますます高まっています。
僕は歴史が大好きですが、人類の悠久の歴史を紐解いてみると、世界を丸ごと理解しようとチャレンジした無数の哲学者がいたことに気づかされます。

同じような意味で、病(やまい)や老い、死などについて恐れ戦(おのの)く人々を丸ごと救おうとした宗教家もたくさんいました。
この本では、世界を丸ごと把握し、苦しんでいる世界中の人々を丸ごと救おうとした偉大な先達たちの思想や事績を、皆さんに紹介したいと思っています。
皆さんが世界を丸ごと理解しようとしたときの参考になれば、著者としてこれほど嬉しいことはありません。

一方において、次のようにも考えました。
さまざまなビジネスの世界で、仕事のヒントを与えてくれたり、仕事が行き詰まったときに新鮮な発想をもたらしてくれるのは、専門分野の知識やデータよりも、異質な世界の歴史や出来事であることが多いということを。
この観点に立てば、人類の知の葛藤から生み出された哲学や宗教を学ぶことは、日常のビジネスの世界にとっても、有益となるのではないかと思うのです。
本書を執筆した目的の一つには、そのことも含まれています。
哲学や宗教は、まだまだ人間の知の泉の一つであると思うのです。

皆さんは、「哲学と宗教はかなり異なるのではないか」あるいは「哲学だけでいいのではないか」などと思われるかもしれません。
この問いに対する答えは簡単です。
イブン・スィーナー、トマス・アクィナス、カントなどの偉大な哲学者はすべて哲学と宗教の関係を紐解くことに多大の精力を注いできました。
歴史的事実として、哲学と宗教は不即不離の関係にあるのです。

僕はいくつかの偶然が重なって、還暦でライフネット生命というベンチャー企業を開業しました。
個人がゼロから立ち上げた独立系の生命保険会社は戦後初めてのことでした。
そのときに一番深く考えたのは、そもそも人の生死に関わる生命保険とは何かという根源的な問題でした。

たどり着いた結論は「生命保険料を半分にして、安心して赤ちゃんを産み育てることができる社会を創りたい」というものでした。
そして、生命保険料を半分にするためには、インターネットを使うしかないということになり、世界初のインターネット生保が誕生したのです。
生命保険に関わる知見や技術的なノウハウなどではなく、人間の生死や種としての存続に関わる哲学的、宗教的な考察がむしろ役に立ったのです。

古希を迎えた僕は、また不思議なことにいくつかの偶然が重なって、日本では初の学長国際公募により推挙されてAPU(立命館アジア太平洋大学)の学長に就任しました。
APUは学生6000名のうち、半数が92の国や地域からきている留学生で、いわば「若者の国連」であり「小さな地球」のような場所です。
もちろん、宗教もさまざまです。
APUで仕事をしていると、世界の多様性(ダイバーシティ)を身に沁みて感じます。
生まれ育った社会環境が人の意識を形づくるという意味で、クロード・レヴィ=ストロースの考えたことが本当によくわかります。

振り返ってみれば、僕は人生の節目節目において哲学や宗教に関わる知見にずいぶんと助けられてきた感じがします。
そうであれば、哲学や宗教の大きな流れを理解することは、間違いなくビジネスに役立つと思うのです。

神という概念が生まれたのは、約1万2000年前のドメスティケーションの時代(狩猟・採集社会から定住農耕・牧畜社会への転換)だと考えられています。
それ以来、人間の脳の進化はないようです。

そしてBC1000年前後にはペルシャの地に最古の宗教家ゾロアスターが生まれ、BC624年頃にはギリシャの地に最古の哲学者タレスが生まれました。
それから2500年を超える長い年月の間に数多の宗教家や哲学者が登場しました。

本書では、可能な限りそれらの宗教家や哲学者の肖像を載せるように努めました。
それは彼らの肖像を通して、それぞれの時代環境の中で彼らがどのように思い悩み、どのように生きぬいたかを読者の皆さんに感じ取ってほしいと考えたからに他なりません。

ソクラテスもプラトンもデカルトも、ブッダや孔子も皆さんの隣人なのです。
同じように血の通った人間なのです。
ぜひ、彼らの生き様を皆さんのビジネスに活かしてほしいと思います。(本書「はじめに」より)

Amazonより
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