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モチベーション3.0 持続するやる気をいかに引き出すか

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世の中では社員はちゃんと管理しないとサボるもの、よって会社は社員を管理することで少しでも単位時間当たりのスループットを高めさせて利益に貢献してもらうよう仕向ける場、といった性悪説に基づいた職場のイメージがあります。

でも、どうせ仕事をするなら少しでも楽しくやりたいもの。会社だって本来は社員がイキイキと働いてくれて、その結果として業績がついてくればいいはずです。では、どうしたら社員のやる気を引き出すことができるのか。

「モチベーション3.0 持続するやる気をいかに引き出すか」(【原題】 Drive: The Surprising Truth About What Motivates Us)では、ほとんどの会社で信じて疑われていない「アメとムチ」をベースとした報酬体系、つまり○○ができたら褒美として給料を上げる、昇格させる、○○しないと待遇を下げる、といった交換条件つきの動機づけの限界を示しながら、それに変わる新たなモチベーションを高める仕組みについて論じられます。

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アメとムチの致命的な7つの欠陥

報酬には本来、焦点を狭める性質が備わっている。解決への道筋がはっきりしている場合には、この性質は役立つ。前方を見すえ、全速力で走るには有効だろう。だが、「交換条件つき」の動機づけは、ロウソクの問題のように発想が問われる課題には、まったく向いていない。この実験結果からわかるように、広い視野で考えれば、見慣れたものに新たな用途を見つけられたかもしれないのに、報酬により焦点が絞られたせいで功を焦ってそれができなかったのである。(p.75)

アマビルのチームは、外的な報酬は、アルゴリズム的な仕事ーつまり論理的帰結を導くために、既存の常套手段に頼る仕事ーには効果があると気付いた。だが、右脳的な仕事ー柔軟な問題解決や創意工夫、概念的な理解が要求される仕事ーに対しては、条件つき報酬はむしろマイナスの影響を与えるおそれがあることも明らかにした。(p.77)

既に確立されている手順に沿って1つずつステップを踏んで行けばゴールに確実に辿り着けるような課題に対しては、上述したような「交換条件つきの動機づけ」は有効に作用します。

しかし、こうした動機づけは以下に示すような落とし穴があると言います。子供にお小遣いをあげるからと言ってお手伝いをさせるケースを思い浮かべるとこれらの欠陥がよくわかります。

アメとムチの致命的な7つの欠陥
1. 内発的動機づけを失わせる
2. かえって成果が上がらなくなる。
3. 創造性を蝕む。
4. 好ましい言動への意欲を失わせる。
5. ごまかしや近道、倫理に反する行為を助長する。
6. 依存性がある。
7. 短絡的思考を助長する。

p.93

ロボット技術やITが進展するにつれて、また新興国へのアウトソースが進むにつれて、手順化された単純作業は機械化もしくは新興国にどんどんアウトソーシングされてきています。今後、日本で現在の給与水準を維持しようとすると、我々はますますこうした単純作業を減らして、人間にしかできない仕事、つまり刻々と変化する状況に合わせて柔軟に考え判断して行動すること、あるいは混沌とした状況から課題を解決したり人間の感性に訴えるようなクリエイティビティが求められる領域に特化していく必要があります。

例えば、コンピュータシステムの開発においては、かつてほとんどをゼロからコーディングしていたアプリケーションプログラムの多くは次第に共通部分がパッケージ化され、プログラマー的な仕事の需要は減少してきています。一方で、顧客である生身の人間と対峙して顧客のニーズを的確に把握し、顧客に必要なシステム要件を整理してソリューションを提案する、といったルーティン化されにくいクリエイティビティが要求される仕事の比重が高まってきているのです。

こうした手順化されにくい分野の仕事では、外的な動機づけはあまり機能しないか、場合によっては「アメとムチの致命的な7つの欠陥」で示されたような逆効果をもたらすことが様々な実験結果から明らかになってきました。では、モチベーションを向上させるドライバーは何なのでしょうか。

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モチベーションを向上させるドライバー

MIT教授らによって北米と欧州でオープンソース開発者684人に対して行われた調査の結果、「楽しいからという内発的動機づけ、つまり、そのプロジェクトに参加すると創造性を感じられることが、もっとも強力で多くの人に共通する動機づけだ」と結論付けられた。(p.47)

これはまったく同感。僕が本業の傍で推進している社内SNSプロジェクトですが、多くの人から「ただでさえ忙しい上に良くそんなボランティアできますね」と言われます。答えは非常にシンプルで「楽しいからやっています。楽しくなくなったらいつでもやめます」というもの。

でも、楽しいことだけやっていて食べていける人はごく少数です。「楽しむ」こと以外に、仕事に対するモチベーションを上げるためのポイントにはどんなものがあるのでしょうか。

本書ではそのキーワードとして、「autonomy(自律性)」、「mastery(習熟)」、「purpose(目的)」の3つを挙げています。

1.autonomy(自律性)

「クリエイティブな集団にとって、もっとも大切な自由とは、新たなアイディアを試せる自由である。イノベーションには費用がかかるのではないか、と疑ってかかる者もいる。長期的に見れば、イノベーションは安価だ。凡庸に甘んじれば高くつく。自立性がこれに対抗する手段となるだろう」トム・ケリー(IDEO、ゼネラルマネジャー)(p.131)

同じ仕事でも、上司があれこれと細かく仕事の手順やアウトプットの詳細にまで口を出してくる場合と、アウトプットの大枠イメージのみを共有したうえで細かなやり方は自分に任せてくれる場合を比較すると、後者の方がモチベーションが上がるでしょう。僕の会社では今月から裁量労働制が始まりましたが、これも社員に仕事の自律性をより与えることでモチベーションを高めてもらうことが大きな狙いの1つです。これがautonomy(自律性)です。

2.mastery(習熟)

課題は簡単すぎず、難しすぎない。しかし現在の能力よりも一、ニ段高く、努力という行為そのものがなければ、とても到達できないレベルのことをほぼ無意識のうちにやっている。これが心身を成長させる。このバランスが、その他の月並みな体験とはまったく異なるレベルの集中と満足感を生み出す。フローの状態では、その瞬間をきわめて深く生きており、完全に思いのままになると感じ、時間や場所、自分自身でさえ存在を忘れるような感覚を抱く。(p.166)

マスタリー(熟達)すること自体が喜び、しかし苦痛も伴う。
「懸命な努力の重要性は理解されやすいが、目標を変えずにたゆまず時間をかけて努力を続けることの重要性は、あまり認められていない……どの分野においても、高い目標を成し遂げるには、才能と同じくらい根気と根性が重要となる」(p.179)

mastery(習熟)とは、ほどよく高い目標に向かって少しずつ上達していく過程そのものが「フロー状態」と呼ばれる、物事に没頭した状態を生み出し、それが楽しみに繋がっていくことを指します。実力に比して簡単すぎる課題ばかりを相手にしていてもフロー状態は生まれず、かえって欲求不満が高まるでしょう。また、あまりに高すぎる目標ではプレッシャーばかりでモチベーションは上がりません。

そして、マスタリーには苦痛を伴うという点を理解しておくことも重要。イチローのような天才でも、そこに行き着くまでは気の遠くなるような基礎練習の反復があって初めて開花した才能であり、また努力し続けられること自体も重要な才能とも言えるでしょう。

3.purpose(目的)

利益志向型の目標を追い求め、それを達成したのにまだ満足できないと感じるとき、目標の規模と領域を拡大しようとするからだ。いっそう高い報酬や他者からの承認を求めるようになる。「幸福へ続く道だと考えて、実はさらなる不幸の道へと追いやられている」
「高い目標を掲げて達成する人が、不安や憂鬱に取りつかれる理由の一つとして、良好な人間関係の欠如が挙げられる。金儲けや自分のことに精一杯で、愛情や配慮、思いやり、共感など、本当に大切なことにかける余裕が人生にないのだ」(中略)

実際に、人類史における偉大な業績を振り返ればー印刷機から、立憲民主主義、命に関わる病気の治療法までー当事者が深夜まで働き続けられるほどの意欲を喚起したのは、利益の追求はもちろんのこと、目的が要因となっていた。健全な社会、および健全な企業組織は、まず目的ありきなのである。そして、利益を目的達成の方法、または目的達成のうれしい副産物とみなす。(p.204)

最後に、モチベーションを高めるのに最も重要かつ有効と思われるのが3番目の要素であるpurpose(目的)です。僕は20代の頃を振り返ると、少しでも早く会社の先輩技術者に追いつきたい、認められたいという気持ちが強く、それがモチベーションの源泉でした。いわば、「一人前の技術者になる」ということが働く目的として明確であり、少しずつスキルアップを実感すること、つまりマスタリーを通じてキャリアの節目でフロー状態を体感することができていたように思います。また職場では上司や先輩に恵まれていて、比較的、若手ながら信じて任せてもらえるような自律的な働き方をさせてもらっていました。

つまり、モチベーション3.0で言われている3要素を自然と備えていた環境でがむしゃらにSE修行をしていたと言えます。必死に目の前の課題に没頭する日々で、いま思うと、自分のスキルアップばかりに目がいって余裕がなく、物事をみる視野は狭かったですし、先輩にも随分と生意気なことを言っていたと反省することは多々あります。自律性とマスタリーの観点からは満たされていたものの、目的という意味では「益志向型の目標を追い求め」ながら「自分のことに精一杯で、愛情や配慮、思いやり、共感など、本当に大切なことにかける余裕が人生にない」状態だったとも言えます。

それが30代に入り、長男が生まれ、4度目の正直で遅れ馳せながら海外留学のチャンスを得て渡米。異文化で、また再び学生という身分で2年間を過ごすなかで、世の中には自分よりも優秀な人間は幾らでもいることを目の当たりにし、また世の中には色々な価値観を持った人が暮らし、様々なキャリアが広がっているという事実を肌感覚で体感しました。あっという間のたった2年でしたが、それまでの10年間ほどの社会人としてのキャリアを振り返り、また暮らしぶりを振り返って、至らぬ点を反省しつつ、その後の自分の人生設計をゆっくりと考え直すには最高の時間でした。

卒業して帰国する頃には漠然とした「根拠のない自信」のもとに、自分なりに思うところを1つずつ実行に移していこうとギアチェンジ。どちらかと言うとインプット中心だった留学期間を経て、とにかくアウトプットすることに重点を置くことにしました。帰国直後に手を挙げた「社内の行動改革プロジェクト」で社内SNSを立ち上げたり、上司の反対を押し切って当時の副社長に構想を示すことで金融分野のM&Aプロジェクトを立ち上げたり。目線を少し上げて、より大きな視点から想いを持って自ら動くことで、反対勢力だった周りも少しずつ巻き込んでいく醍醐味を感じることが増えてきました。

30代もいよいよ最終ステージに入り、「利益を目的達成の方法、または目的達成のうれしい副産物とみなす」ことで、何よりもまず自分のやりたいことがより自由にでき、精神衛生上も健全だという働き方が最近ようやく身についてきたように思います。とは言え、自分のやりたいこと、できること、やるべきことが全て一致するような仕事はなかなか簡単には見つかりません。本書が言う「モチベーションを高める3つのポイント」を折りに触れて思い返しながら、自分の天職を追求していきたいですし、またチームの仲間ともこの視点を共有して、よりmotivativeな職場づくりを目指していきたいと思っています。

モチベーションという言葉が気になりだした方にオススメ。何らかの気づきが得られる1冊です。

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