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デフレーミング戦略

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元同僚&大学の後輩で、現在は東京大学大学院准教授の高木聡一郎さんの「デフレーミング戦略」を読みました。

本書では、デフレーミングというキーワードを軸にして、デジタル時代における製品・サービスが目指すべき方向性やその実現方法について示されているほか、産業のあり方のみならず個人レベルの働き方がどう変化していくのかといった点まで考察されており、自分ごととして色々と考える良い契機になりました。

本書の目的は、「デフレーミング」という概念でデジタル化がビジネスや経済に与える本質的な影響を明らかにすることです。

「デフレーミング」とは、枠(フレーム)が崩壊するという意味の造語。デジタル技術が社会経済に与える影響を理解するための共通的なフレームワークとして、ビジネスモデル、企業のビジネス戦略から、私たちの働き方、キャリア設計、学び方にいたるまで、あらゆる変化をとらえる鍵となります。

デフレーミング戦略とは、伝統的な製品、サービス、組織などの「枠」を越えて、それらの内部要素をデジタル技術で組み直すことで、ユーザーにより最適化されたサービスを提供できるようにすること。従来の「サービス」や「組織」といった「枠」がなくなる時代に、万人に受けるパッケージ化されたものから、ユーザーに個別最適化されたものに転換させ、企業という枠で仕事を受発注するのではなく、個人のスキルやリソースを個別に特定して取引するビジネスの考え方です。

本書では、その様々な現象や事例を通じて、今後のビジネスやサービスの変化を考察するとともに、近年クローズアップされている「デジタル・トランスフォーメーション」(DX)についても、それが社会に与える深い影響を、明らかにします。

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「範囲の経済」に基づく成長戦略

p.87 たとえば銀行口座を開設する際に、必要な公的書類を電子的に取り寄せて紙で印刷して提出する、というサービスを提供しても、ユーザーにとってプラスアルファの利便性は大きくありません。
行政機関が持つ証明情報を、口座開設をする際に、それを必要としている金融機関に対して直接送信できれば、紙の出番はなくなります。
これをスマートフォン上の簡単な処理だけでできるようになれば、ユーザーの利便性は飛躍的に向上し、切り出された機能だけでも大きく普及する可能性が出てきます。
さらにこの情報を本人同意のもとに送信するという機能を、不動産会社向け、企業登記向け、就職サービス向け、というように横展開することで、範囲の経済を実現していくことができます。
また、逆に金融機関が持つ信用情報を、本人同意のもとに航空会社やホテルなどに送信し、信用情報に応じた割引などを受けるといったサービスに展開することも可能です。

いま世の中で提供されているデジタルサービスの大半は、従来の事務フロー、つまり紙をベースとして申し込みがあり、人がそれをコンピューターに入力して、チェックして、処理して顧客に戻す、といった一連のプロセスを前提にして、少しずつデジタル化の範囲を広げるアプローチで作られています。でも、これではデジタル化のメリットは極めて限定的です。

本質的なデジタルサービスを生み出すには、従来のプロセスはいったん忘れて、顧客が自らスマホ上で情報を入力するところを起点として、いかにして最短距離で必要な処理を自動化できるかをゼロベースで設計し直すことが重要です。

そのためには、ユーザー目線で本当に必要な成果を定義し、ペーパーレスでデジタルオンリーな前提で柔軟にプロセスをデザインできる人材がより求められます。

もちろん、法制度で求められる最低限の基準を満たしていることの確認や、高品質な成果を実現するためのチェッカーとして、現行の業務フローを理解している人の参画は必要ですが、従来のフローに必要以上に固執しないことがunique value propositionに繋がります。

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本当に必要なものならコストがかかってもよい

p.141 逆にいえば、アウトカムを本当に出すためには、個別最適化をする必要があるのです。なぜなら、それぞれのユーザーは個別の事情を抱えており、また目標とするものも異なります。同じサービスを提供したからといって、期待される成果が得られるとは限りません。
ユーザーにとって本当に望んでいることはサービスを受けることではなく、自分がめざす状態を実現することであり、そちらの方に高い価値があることはいうまでもありません。アウトカム志向は、必然的に個別最適化を求めることになるのです。

こうしたデジタルサービスの内容を突き詰めていくと、マスを前提とした最大公約数的なサービス内容では顧客の期待値を満たせなくなってきます。

結果として、ユーザー一人ひとりのニーズに合わせてカスタマイズされたサービスを提供できることが当たり前品質になってくることに。

また、ユーザーも単に「安かろう、悪かろう」なサービスは使わない代わりに、本当に便利で役に立つ、あるいは心を揺さぶられる感動を与えてくれるようなサービスに対しては、適切な対価を支払うことを惜しまないでしょう。

この対価とは、単にサービス使用料という貨幣価値だけでなく、信頼できる相手には自分の個人情報もある程度までは提供しても良いという「データ提供」という対価も含まれてくると思います。

この時に重要になるのは企業の信頼、ブランド。デジタル化が進展するのにつれて、個人から見た企業の信頼の価値はますます重要になってくると思います。

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「個人化」するサービス主体

p.34 つまり、最大公約数的な能力は、一定の規模のニーズがあり、人手というコストをかけているので、人工知能などによる自動化の対象になりやすいのです。したがって、今後は自分にしかできない得意な能力を伸ばし、それをグローバルに提供していくことが、個人にとっての最大の戦略になります。
これは、「職業」という考え方に対するひとつの挑戦でもあります。「お仕事は何ですか?」と訊かれて、「○○銀行の行員」といった組織の帰属を前提とするキャリアは、今後、時代の推移の中で危うくなっているということです。

AIの進化に伴い、人間の仕事がどんどんAIに置き換わっていくというトレンドがあります。中でも単純な事務作業的な仕事から順にAI化されていくのが現実。

個人のスキルとタスクとのマッチングがクラウドソーシングのようなサービスで低コストで効率的になされるようになってくるのに伴い、企業の中の社員はこうした社外のリソースとも比較されながらパフォーマンスを上げていかねばならない時代になりつつあります。

今までの日本では優秀な若手人材を大学卒業と同時に大企業が囲い込み、安定性を提供する代わりに企業内でローテンションさせながら自社事業で活用してきましたが、今後は有能な社員ほど社外でのキャリアの可能性が広がるため、従来の仕組みでは囲い込めなくなってきている印象です。

また、デジタル化の進展により、大企業といえどもすべて内製するよりも社外のリソースを有効に活用する方がコストメリットがあったり、新製品・サービスのリリース頻度を上げたり、イノベーションを生みやすかったりといったメリットが発現しやすい環境になってきており、社員の兼業を認めることは単に社員のスキルアップ向上だけでなく、企業にとっても競争力向上のために必須なアプローチになってきています。

これからの企業では、社員の兼業を認めながら、本人のキャリアプランと企業側の期待とをしっかりすり合わせることをより真剣にコストをかけて実施することが優秀な人材を惹きつけるため、ひいては今後の成長のために不可欠になってくると考えます。

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「終身雇用」という幻想と課題

p.218 高齢者は昔に比べて健康で、若返っているとする見方もあります。まだ十分働ける能力や体力があるにもかかわらず、定年退職等の制度により、強制的に「支えられる側」になっている状況があります。国際大学GLOCOMとパナソニック株式会社スペース&メディア創造研究所が共同で実施したアンケート調査では、60歳以降に働くことを希望する人は約75%である一方、60歳以上で実際に働いている人は約35%にとどまっていることがわかっています。

p.219 前述のアンケート調査では、60歳以降に就労していない人の大半は企業の正社員出身であることがわかっています。その中でも、特に課題を抱えているのは、意外なことに管理職経験者です。

課長、部長クラスであった人は、60歳以降に就労していない傾向にあります。管理職になると労働組合を脱退する上、役職定年等で早い段階で子会社等に出向になるため、能力があっても高齢期に働けないという問題が生じています。

そう遠くない52歳で役職定年を迎える僕としては、この調査結果は確かに一理あるなと感じると同時に、こうした「企業内で囲い込まれてきた」人材が流動化し、人材難で困っている中小企業やスタートアップ、地方の企業等で活躍できるような環境が整ってくることが日本の経済全体にとって重要と思います。

p.220 主となる企業で働きつつも、異なる仕事と収入源も持ちながら、年代によって主たる仕事をシフトしていくことができれば、年金に加えて、まったく新しいセーフティネットともなります。
主となる企業で培った経験をもとに、シニア期に起業したり、ベンチャー企業へ再就職したり、それまで培った経験を活かすことは、本人にとってだけでなく、人材難やイノベーションの不足に苦しむ社会全体にとっても大きな意義があることです。

人生100年時代を見据えて、企業の枠を超えて社外でも活躍する場を持ちながら自分を成長させていきたいという思いを新たにしました。

さて、そのためには何から始めようかな。

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高木さんから頂いたメッセージ

ありがとうございます!竹倉さんに詳細に読んでいただけるなんて光栄です!

書かれていた中で、個別最適化のためのデータ提供の部分は大変重要なご指摘と思いました。企業戦略としてはデータに基づく個別最適化は脱コモディティ化のためには重要で、その一方で過度な抱え込みの状態になると社会的な損失も出てくるかもしれない、その辺のバランスをどう考えるか、新たな課題を頂いたような気がしました!

facebookコメントより
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