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声の網

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星新一の小説「声の網」は今から50年前の1970年に書かれた作品ですが、インターネットや中国に見られるような監視社会の出現を予見していたかのような先見性に驚かされます。

電話に聞けば、完璧な商品説明にセールストーク、お金の払い込みに秘密の相談、ジュークボックスに診療サービス、なんでもできる。便利な便利な電話網。ある日、メロン・マンション一階の民芸品店に電話があった。「お知らせする。まもなく、そちらの店に強盗が入る…」そしてそのとおりに、強盗は訪れた!12の物語で明かされる電話の秘密とは。

Amazonより
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電話網の先で自律的に繋がるコンピューター群

近未来を描いたSF小説ですが、無線による携帯電話ではなく、有線の電話機がインターフェースになっているのがまた面白いです。

電話回線の先には無数のコンピューター群が繋がり、自律的に協調して人間の役に立とうと立ち居振る舞った結果、人間とコンピューターが不思議なバランスで共存する社会へ。

p.263 永遠の安定。それは人類のひそかな願いでもあった。安定を築くとの名のもとに、限りなく争いや混乱がひきおこおされ、人はそれを口にしたがらなくなった。しかし、心では期待しつづけていた。そのためなら、どんな犠牲を払ってもいい。進歩でさえも、と。その願いもまた心の底でつぶされ、そとへとにじみ出て、存在となった。
 コンピューター群は、これわることはない。故障が生じれば、人に指示し、なおさせる。その指示に反抗することはできない。
 あらゆる情報を吸収し、そのなかにまざる、この秩序をつくがえし人間のためにならぬと判断したものは、その大きくなるのを押しとどめる。
 コンピューター群が人間を支配しているといえるかもしれない。しかし、コンピューター群をうみだし、このようにしたのは、人間の心によってだともいえる。人間の心の最も忠実なしもべでもある。(中略)
 もちろん、ここしばらくのあいだは、なにか違和感を持つ人もあるだろう。しかし、それも過渡期のあいだだけ。そのような人のへることはあっても、ふえることはない。人びとはより均質化、平等へとむかうだろう。それが人の願い、なにごとも神のみこころなのだ。

コンピューターは電話回線を介して個々人が抱えている秘密を収集し、ビッグデータ分析を重ねることでより賢くなっていきます。データこそが価値を持つ時代。

個人の秘密を武器にして人びとをコントロールしていくコンピューターはゆるやかに確実に人類を制御していきます。

マトリックスで描かれたような機械による絶望的な管理社会とも違った、いわば人間が無意識のうちに望んでいた平和で調和の取れた世界へと導かれていきます。

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神とテクノロジーの関係性

p.261 人びとは大むかしから、神の存在を夢みてきた。理屈ではなく、心からの願いであった。そして、その神とはこのようなもの。
 人に気づかれることなく、どこかにおいでになるもの。万能の力で、あらゆる人間の記録をにぎっておいでになり、なにごとも見とおしていらっしゃる。心の奥も神にはかくせない。そして、どの個人も運命の糸で神と直結している。神はいつでも公平な審判を下せるだけの力をそなえておいでになる。

過去のデータをすべて蓄積し、世界中に張り巡らせられたセンサー、監視カメラ、IoTからビッグデータをリアルタイムで収集・分析して、もっともらしい未来を常に予測し続ける。

インターネットとその先に繋がるコンピューター群は、かつて人類が神と呼んでいた存在に近づいているのかもしれません。

あるいは、世界賢人会議ブダペストクラブの創設者であるアーヴィン・ラズロ博士が提唱する、宇宙の過去、現在、未来のすべての情報を記録する「アカシック・フィールド」、もしくはゼロ・ポイント・フィールド仮説が想定する、我々の生きるこの宇宙の過去、現在、未来のすべての情報が記録されている空間をコンピューター群、そこに繋がるネットワークがインターネットと置き換えると、科学技術はこの世界の成り立ちを模倣する方向に進化しているようです。

随所に50年前の作品とは思えない、ドキッとさせられるような描写が印象的なSF小説です。

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