2019/3末で約13年の歴史にピリオドを打った社内SNS(Nexti)のオフ会が先日開催され、参加してきました。
Nextiというバーチャルな場は終わってしまったけれど、そこで交流していた仲間とリアルに繋がりたい、という想いを持った方々が20名ほど集まりました。
もともとが社内SNSで知り合ったメンバーのため、ほとんどがその場で顔と名前が初めて一致する、でも何年も前から知っている友人のようにその人となりは社内SNSを通じてよく知っている、という不思議な関係性。
いまどき、大企業で部署が違えば、隣のシマで働いている同僚でも名前も知らなかったり、何をしている人かも知らないことは日常茶飯事です。あるいは、同じ部署の仲間でも仕事以外のプライベートについてはあまり知らないこともあったり。
一方、社内SNSを通じて知り合った仲間は、同じ企業グループに属しているというだけで会社も違えば、仕事内容も、世代も、何もかもが違うし、そもそも会ったこともない。
でも、ふとした思いや関心事を共有しているので、会ったことがなくても下手な職場の同僚よりも親しい間柄に感じられる、というケースもよくあります。
千賀さんとの出会い
そんな中で、社内SNSのオフ会でたまたま隣に座っていたのが千賀さんでした。私が名乗ると、初対面にも関わらず、「ああ、あなたが竹倉さんでしたか。Nextiのおかげで会社生活が豊かになり、助けられました。Nextiを作ってくれて本当にありがとうございました。」といった言葉をかけて頂きました。
そして、ご自身が56歳で肺がんを発症されたこと、その思いを職場で社内SNSに綴っていたこと、多くの顔も知らない社内SNS上の仲間と交流して前向きな気持になれたこと、自分の経験を本にしてもらって出版したこと等を初対面の僕に優しく話してくれました。
柔和な笑顔を絶やさずに、穏やかな語り口で明るく話す千賀さんの話を聞きながら、社内SNSでガンの体験に関する本を出版した話をしている人がいたことをふと思い出しました。それが千賀さんでした。
「人生でほんとうに大切なこと」との出会い
「その本は、Nextiに私が綴った日記から始まるんですよ」とのこと。そして、がん専門の精神科医という職業があり、その先生との出会いで大きな気づきを得られたこと、世の中の人にこうした存在をもっと知って欲しいという思いで知り合いのライターの方にお願いして本にしてもらったこと等を聞きました。
僕も母を10年前に乳癌で亡くしており、周りにもガンと戦っている友人が何人かいることもあり、すぐにその本「人生でほんとうに大切なこと」を注文して読んでみることに。
精神腫瘍科を知っていますか? がん患者が抱える不安や混乱に寄り添います。
がん宣告を受けると、多くの人はいやがおうにも死を意識し混乱する。そういう意味で、がんは非情な病である。
Amazonの紹介ページより抜粋
本書に登場する患者さんも、がんと闘いながら、やがて自分自身の境遇に葛藤することになる。国立がん研究センター中央病院(築地)・精神腫瘍科長の清水研は、がん専門の精神科医として、これまで3000人以上の患者さんやその家族と、静かな水のような対話を続けてきた。
入院患者だけでなく退院してからも清水との対話に通う人も多くいる。何度も対話を重ねるうちに、彼らは自分が負っている未解決な問題に気がつき、その解決に取り組み始める。
ここに紹介する七人は、
「小児がんで21歳で逝った大学生」
「乳房全摘出を決意したモデル」
「司法試験の前日にがんを発症・転移した青年」
「ふたりの子供をもつ若いお母さん」
「何不自由ない暮らしを送ってきた(はずの)主婦」
「一人で喫茶店を経営してきた活発なママ」
「全力で仕事をし、家族のヒーローとして頑張っているお父さん」だ。
どの人も清水先生との対話によって、苦悩をほどき、人生の新しい扉を開いていった。
――それは清水自身が若い頃から抱えていた心の鎖をほどいたのと同様だった。本書は、まだまだ知られていない精神腫瘍科の存在を知ってほしいという、ひとりのがん患者の切実な願いから生まれました。
人生でほんとうに大切なこと
人間は誰でも必ずいつかは死ぬ、という当たり前の事実がある一方で、死は自分とは関係ない先のこと、死について考えるのは怖いので考えないようにする、というのが多くの人の感覚だと思います。僕もそうでした。
この本では、様々な世代や境遇の人々がある日突然にガン宣告を受けて、悩み苦しみ、そして精神腫瘍医と出会い、自分の人生と向き合いながら自分なりに生きる意味を再発見していくプロセスが描かれています。
物理的な痛みや、死に対する様々な不安、恐怖に向き合いながら、家族や周囲の人々とどう接すればよいのか、がん患者が抱える悩みに対して、がん専門の精神科医として患者に寄り添い、患者が自分自身と向き合って、その人なりの「人生でほんとうに大切なこと」を見つけ出す手助けをするのが精神腫瘍医という仕事。
自分の命が有限であることに気づき、余命を宣告されることがきっかけとなり、改めて自分の過去を振り返ってみて、自分にとって本当に大切なことは何なのか?という根源的な問いに皆、向き合うことになります。
p.131 がん体験を経て様変わりした状況を意味づけるためには、
一 がんになるまでは自分はなにを大切にして生きてきたのか
二 がんになることで、なにを失ったと感じているのか
三 今、なにを恐れているのか
四 なにが残っていて、なにを得たのか
を考えていくことが一つの方法だ。(中略)
このような対話を積み重ねることが心の整理につながり、これから自分が進もうとする道筋を見つけることにつながる。死を意識する体験は、苦痛を伴うが、人生を深く考えることにもつながる。
本書で紹介されている7つのエピソードでは、それぞれの患者が精神腫瘍医の清水先生との対話を通じて、自分の生い立ちから振り返りながら、自分でも気づいていなかった、心の奥底にある大切な価値観に気づき、前向きな気持ちで新たな一歩を踏み出していきます。
社内SNSを立ち上げたことで13年間で1,000人を超える社内外の方々と直接、対話をする機会を得ることができ、普通のサラリーマンでは体験できないような様々な経験を通じて成長できました。
そして、今回、不思議なご縁で千賀さんと知り合い、この本を紹介して頂いたのも僕がNextiを立ち上げて得られた大切なことの1つになりました。
先日の社内SNSのオフ会で僕が一番驚いたのが、壮絶な闘病のエピソードをさらっと語る千賀さんの姿でした。肩の力が抜けた自然体でいて、周りの人の話に熱心に耳を傾けながら、時に大きな声で笑い、生きることを楽しんでいる様子が全身から伝わってきました。
「5年生存率は5%」と宣告されて、どうしてあんなに朗らかで穏やかにいられるのだろうか。本書を読んで、その理由が分かったような気がしました。本書は、最終話「全力で仕事をし、家族のヒーローとして頑張っているお父さん」千賀さんが書いた次のNextiの日記で締めくくられています。
p.182
がんになったおかげで生まれ変わることができた。
思ったよりも多くの人に愛されていることを知った。
思ったよりも深く愛されていることを知った。
自分が友人たちのことを、深く尊敬していることに改めて気づいた。
自分がその素晴らしい人物たちに重んじられていることに、改めて気づいた。
自分の人生は良い人生だった。そう思うことができた。
これからは、さらに、良い人生になる。そう思うことができた。
それは、形あるものも、形のないものも、あらゆるものの輝きを感じとる能力。
あらゆるものに感謝できる能力。
「次は無い」かもしれないから、いま伝えようとする能力を、がんになったことで得たからだ。
この能力は、おそらく「希望」。この能力は、「絶望」を乗り越える。
そりゃあ、身体は負けるかも知れないけれど、私は、がんには負けない。
希望を持てば、乗り越えた絶望の深さは、意味を持たなくなる。
希望の星を見上げる者には、這い上がって来た谷底の深さは、もう目に入らないだろう。
がんになって、ほんとうに良かった。
生まれ変わることができて、間に合って、良かった。
千賀さんから頂いたメッセージ
このブログエントリーを書くに当たり、千賀さんからメッセージを頂けたので、ここに紹介します。
2015年から「がんと一緒に生きる」ことになった私は、生きる為にも働き続けることを選びます。しかし痛みを抱えて働く私は、孤独に陥ることにはなりませんでした。幸運な事に私には社内SNSの「Nexti」がありました。「ネット上のタバコ部屋」とも呼ばれたNextiで、私は自分の体験や気持ちを日記として綴りました。
千賀さんから頂いたメッセージ
「がんは身体だけでなく心も蝕みます。だからどうか、残された時間を悔いなく使う為にも、患者やその家族は専門の精神科医のサポートを受けて欲しい」
病気を開示することは勇気を必要とすることでした。そんな私の想いは、Nextiの中で、真っ直ぐに伝わりました。
そして、私個人というよりも、私の想いを応援してくれる応援団員が次々に現れてくれました。そしてその Nextiが終わるまさにその時に、私は Nextiを立ち上げた竹倉さんと出会うことができました。
私には初対面で一回り年下の竹倉さんが、何故か旧知の仲間のように思えました。
間違いなく何かの「ご縁」で、私たち二人は宴席の隣合わせで酒を酌み交わしていました。
そんな竹倉さんも私の想いを伝える応援をしてくれることになりました。
「あの竹倉さんが、私の想いを形にした「人生でほんとうに大切なこと」を紹介してくれる」ということに、私は静かに興奮しています。