今年度のグローバルビジネス企画担当のスローガンは「正解はない。自分の頭で考えて、行動して、正解にする」にしました。企画という仕事はモノを作る開発、モノを売る営業と比べると、曖昧でわかりにくい職種です。
一言でいえば、business development, つまりゼロから新しい事業を興すのが仕事。特に大企業で与えられた仕事をこなしてきた人にとっては、企画という職種はイメージしづらいことでしょう。
開発や営業と企画の違い
このスローガンには、企画の仕事には「正解はなく、自分で正解にする」という心構えが大切だ、という想いを込めました。開発や営業はある程度までは標準や手順書、マニュアル、方法論というものがありますが、企画という仕事にはそれがありません。開発は定められたスペックを満たすモノを作るのが仕事であり、営業は開発されたモノを売るのが仕事なので、やるべきこともゴールも比較的わかりやすい。
「上司がこうしろといったから・・・」、「お客様の指示で・・・」という言葉は確かに正しいのですが、人に言われたことだけやっているのでは単なる作業者です。もちろん、仕事をする上で作業を確実にこなすことも大事ですが、人に言われたことをするだけでは企画の仕事は務まりません。企画の仕事をするには、自分の頭でまず考えることが求められます。
そもそもどの山に登るべきか?を考える
では、企画は何を考えるのか。ゼロから新しい事業を興すには、上司や顧客の言う通りのことをやっているだけでは他者と差別化できません。上司はAをやれと言うけれど、実はBから始めた方が良いのではないか。お客はAが欲しいというけれど、お客の置かれている状況を考えるとまずBを手掛けた方がより効果的なのではないか。
企画では、そもそも「何を目指すべきか?(What)」、「なぜそれをやるのか?(Why)」といった、より本質的な問いかけを自分の頭でとことん考え抜くことが必要です。
たまに、「私は役職が低いからそれはできません」とか「明確な指示を出してくれないと動けません」といったことを言う人がいますが、役職とリーダーシップは全く別物です。役職が上だからといって偉いのではなく、役職とは単なる役割の差であり、各自が抱えている責任の範囲の違いに過ぎないと僕は考えるようにしています。
したがって、それぞれの持ち場に応じて、自分がやるべきことを自分の頭で考えること、何をするべきか、なぜそれをやるべきか、といった本質的なことについて常に考えるクセをつけることが大切です。多くの人は「どうやるか?(How)」ばかり考えがちですが、そもそも間違った山に登ろうとしているのだとすると、いくらHowを考えてもゴールには決して辿り着けません。
まず自分自身が腹に落ちるレベルまでWhat?やWhy?についてとことん考え抜くこと。その上で、こんな問題意識を持っていて、だからこんなことをやらせてほしい、と自分の言葉で伝えること。上司や顧客もバカではないので、単に自己中心的な発想で言っているのか、あるいは人よりもより深く考えて新しいやり方を提案しているのかは正しくコミュニケーションを重ねれば伝わるものです。こうした姿勢の中から初めて新しい発想、新しいモノやサービスの芽が育まれていきます。
走りながら考える
考えることが大切とは言っても、机に向かって唸っていても何も始まりません。自分で自分が登るべき山を見つけたら、正解にできるまで粘り強くやり抜くことが大切。山に登る意味を考えていいのは、登り切った人か、途中であきらめて降りた人だけです。
ただ、闇雲に行動すれば良いものでもありません。行動するフェーズでは、考える内容をWhatやWhyからHow、つまり「どうやるか?」に比重を移していくことがポイントです。WhatやWhyは一度やると決めたら早々に変更するべきではありませんが、このHowの世界は全く別で、幾つでも選択肢があっていい世界。むしろ正解などない世界なので、その時点で知り得るファクトとロジックに基づいてもっともらしい自分なりの仮説を持ってまずは行動してみることです。
行動すると色々な新しい情報や考え方に出会います。すると、それまでの仮説が間違っていたことがわかることもあります。その時は潔く仮説を捨てて、より正しそうな新しい仮説を作れば良いのです。そして、またその仮説に基づいてどんどん行動してみる。この仮説検証のサイクルをひたすら回していくことでのみ、少しずつ正解に近づいていくことができます。
やるべきこと、やりたいこと、できること
人はみな、やるべきこと、やりたいこと、できることがあり、それぞれ違っています。もし、この3つが重なる部分が大きければ大きいほど、仕事をしていて何よりも楽しいし、やりがいを感じることができるし、自分自身も成長していきます。すると、自然と結果もついてきます。
ここで大切な事実は、この3つのマルは相互に深く関連しているということ。自分で自分の役割を狭く定義して、他人に言われたことだけを忠実にこなしているのは自分で考える必要がないのでとても楽です。しかし、こうやって自分の居心地の良い場所に居続けることは、単に食わず嫌いで視野が狭くなるというだけではなく、実は上記の3つのマルが小さくなっていく、ということを意味します。
限定的な役割しかできないとそれなりの仕事しか任せてもらえず、次第に仕事に新鮮味がなくなってきて興味や関心が低下し、仕事の質も低下していく、という負のスパイラル。マルが小さくなれば、重なる部分も小さくなるばかりか、3つのマルが離れていってしまいます。これでは結果が出るはずもなく、自信もなくなっていきます。
居心地の良い場所から一歩踏み出すこと
テクノロジーが日々進化し続ける今、これまで人間がやっていた仕事の多くは機械やコンピューターに取って代わられていきます。このシフトは、手順が形式化されている単純な作業から順番に加速度的なスピードで進展していくことでしょう。好むと好まざるとに関わらず、現代を生きるということは動く歩道を逆向きに歩いているようなもので、楽しようと思って立ち止まっていると、現状維持はおろか実は後退しているのかもしれません。
しかし、どんな仕事であれ、どんなにテクノロジーが進化しても最後まで人にしかできないことは、自分の頭で考えて行動すること。あえて居心地の良い場所から新しい世界に一歩を踏み出してみる勇気、Putting yourself out of comfort zone精神が大切です。
どんなに小さなことでも良いので新しいことに挑戦してみること。慣れないことは不安だらけで辛いこともありますが「苦しい時が上り坂」、こうやって自分の頭で考えて、行動することを地道にコツコツと積み重ねていくことで自分でも気づかぬうちに少しずつ、でも確実に自分の視野が広がり、色々なことに興味や関心を持つことができ、できることが増えていき、任される仕事も増えていきます。
「正解はない。自分の頭で考えて、行動して、正解にする」
この心意気を胸に秘めて、まだ見ぬ新しい世界を切り拓いていこう。
■行動によって、自ら正解を構築していくのが人生である。
■決めたら、自分の意志と情熱で正解にするしかないのだ。