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ミツバチのささやき・瞳をとじて

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寡作で知られるビクトル・エリセ監督(83歳)のデビュー作「ミツバチのささやき」(1973年)と、恐らく彼の最後の作品となる「瞳をとじて」(4作目!)を観ました。

この2作はセットで、そして大画面で余計な割り込みの入らない劇場でゆったりと時間の流れに身を任せながら観たい映画です。

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ミツバチのささやき

上の写真の下に写っているのが「ミツバチのささやき」のアナ。まだ5歳で現実と物語の区別が曖昧だったため、本人も含めて役者はみな本名を役名にして出演したそう。

一人の少女が体験する現実と空想の交錯した世界を繊細に描き出した作品。スペインのある小さな村に『フランケンシュタイン』の巡回上映がやってくる。6歳の少女アナはスクリーン上の怪物を精霊と思い、姉から怪物は村外れの一軒家に隠れていると聞いたアナは、ある日、その家を訪れる。そこで一人のスペイン内戦で傷ついた負傷兵と出会い……。

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スペイン内戦後の1940年代を舞台に、アナの目を通した日常生活が静かなトーンで描かれています。演技というよりドキュメンタリーのような自然なアナの表情や仕草が印象的。母が出している手紙の宛先、父と母の関係、ある時からベッドにいなくなった姉など、余計な説明は一切ない中でアナの視点からそうした出来事を一緒に体験します。

天真爛漫なアナの可愛さと、どのシーンを切り取っても絵になる構図の美しい映画でした。

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瞳をとじて

1973年の「ミツバチのささやき」で主演を務めた当時5歳のアナ・トレントが50年の時を経て再び「瞳をとじて」でエリセ監督作品に出演、しかもアナという役名で出演したと言われると観ずにはいられません。

本作を鑑賞した宮崎駿は「荘重な映画だ」「刺激を受けた」と隣で一緒に観た鈴木敏夫に感想を述べたそう。

「ミツバチのささやき」などで知られるスペインの巨匠ビクトル・エリセが31年ぶりに長編映画のメガホンをとり、元映画監督と失踪した人気俳優の記憶をめぐって繰り広げられる物語を描いたヒューマンミステリー。

映画監督ミゲルがメガホンをとる映画「別れのまなざし」の撮影中に、主演俳優フリオ・アレナスが突然の失踪を遂げた。それから22年が過ぎたある日、ミゲルのもとに、かつての人気俳優失踪事件の謎を追うテレビ番組から出演依頼が舞い込む。取材への協力を決めたミゲルは、親友でもあったフリオと過ごした青春時代や自らの半生を追想していく。そして番組終了後、フリオに似た男が海辺の施設にいるとの情報が寄せられ……。

「コンペティション」のマノロ・ソロが映画監督ミゲル、「ロスト・ボディ」のホセ・コロナドが失踪した俳優フリオを演じ、「ミツバチのささやき」で当時5歳にして主演を務めたアナ・トレントがフリオの娘アナ役で出演。

映画.com

映画の中で映画を作る「カメラを止めるな」のような構造、映画の中の映画監督ミゲルとエリセ監督、アナ・トレントが「ミツバチのささやき」と本作でつぶやく「私はアナ」というセリフ、街の片隅にある映画館等、幾つもの重層構造が織りなす深みが味わい深い作品でした。

主人公の映画監督ミゲルが老いつつも決して裕福ではなくても海岸沿いの小さな家で仲の良い友人と自分の好きなものに囲まれて満ち足りて生活している日々がなんとも素敵です。

彼の悠々自適な生活を見ながらMBA留学中に出会った小噺を思い出しました。

 旅行者が「もっと漁をしていたら、もっと魚が獲れたんだろうね。惜しいなあ」と言うと、漁師は、自分と自分の家族が食べるにはこれで十分だと言った。
 「それじゃあ、あまった時間でいったい何をするの」と旅行者が聞くと、漁師は、「日が高くなるまでゆっくり寝て、それから漁に出る。戻ってきたら子どもと遊んで、女房とシエスタして。 夜になったら友達と一杯やって、ギターを弾いて、歌をうたって…ああ、これでもう一日終わりだね」

各界の著名人が寄せたメッセージ

登場人物はみなそれぞれの痛みを抱えながらも前を向いて生きて、ゆっくりと老いていきます。そうした日々を生きる中では失うものだけではなく、時間が経過するから得られるものもある。50歳を過ぎたからかもしれませんが、この映画を観ながらそんな境地が少し分かるようになってきました。

そして、失踪した俳優フリオの謎を追う圧巻のラスト。映画を見終わった余韻にひたりつつ、劇場の扉を出たところに貼ってあった本作のポスター写真を眺めたときに「はっ!」としました。この瞬間だけでも観た甲斐があったというもの。

日々の忙しさに追われている人にこそ、あえて劇場に足を運んでじっくり味わってもらいたい名作です。

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ロサンゼルスMBA生活とその後