神奈川県立音楽堂による「音楽のピクニック」のプレイベントとして、2022/3/12に夢枕獏✕竹倉史人 対談がYouTubeで生配信されました。
「縄文研究、縄文神話に魅せられた2人が自然や環境への思いを語る」対談は、当初の90分の予定を大きく延長して2時間以上に亘って熱いトークが展開され、大いに盛り上がりました。
人間の脳は物語を作るようにできている
前半は、夢枕獏さんによる「人間の脳は物語を作るようにできている」という投げかけから始まりました。
- 「私」という概念も脳が作った虚構。
- ネアンデルタール人は数家族くらいの集団しか作れなかったのに対して、ホモ・サピエンスは私という概念を持つことでより大きな集団を作ることができ生き残りやすかったのではないか。
- 人類は「宗教」という物語を作ることで一番大きな集団を作れたが、最近では「お金」という物語が最大の関心事になっている。
- この危機から人類を救うには縄文的な考え方しかないといのが今の立ち位置
これに対して、竹倉氏は「太陽神、水の精、擬人化が解せなかった」として、実は古代人は神々を擬人化していたのではなく、そもそも人格があるものとして人間以外の生命やモノを認知していたのではないか?という気づきを紹介。
そこから、自分が無意識に使っている認知フレームを意識し、時に外したり、ずらしたりすることの大切さについて話が深まりました。
- 人が作ったフレームで世界を認知している
- お金が幸せを実現するという拝金主義も1つの宗教でありフレーム
- フレームを外したりずらすことで世界は違って見えてくる
- 小説を書いていて新たなフレームに気がつくこともある
近代人の認知フレームはニュートンに縛られすぎている
我々が信じているニュートン的な世界観、三次元や時間といった概念は太陽系の中だけ見ていれば正しく説明できますが、より広範囲な宇宙に適用しようとするとアインシュタインの一般相対性理論を適用しないと正しく目的地に辿り着けないという限界について夢枕獏さんが触れました。
これを受けて竹倉氏が深く共感し、議論がさらに広がります。
- 我々の認知フレームはニュートン的なものに縛られている
- 時間は一定に流れ空間も一定
- 時間も空間も伸びたり縮んだりしないから面白くない
- 一方で、「楽しい時間はあっという間に感じる」という体験や、モノは観測されることで存在するという量子力学の世界観、仏教が到達した世界観などを考えると、今の我々の認知フレームは現時点でもっともらしい説明でしかない。
- 我々が縄文人の世界観について「昔の人は精霊の存在を前提とした稚拙な理解しかできなかった」と評するが、1000年後の人類から見れば現代人の世界の認知フレームは原始的なものとして映るだろう。
そして、竹倉氏は「縄文人の精神性を卑下したり、礼賛したりするのは本質的には同じこと」とし、「縄文人は生きるために極めて合理的に世界を認知した結果、自然と調和することを選択した」という見解を示して、必要以上に縄文文化を美化する動きに警鐘を鳴らしました。
土偶の顔は仮面
あっという間に予定の90分が過ぎましたが、まだまだ話足りない夢枕獏さんが竹倉氏に対して色々と質問をぶつけていきます。
その中で、実は土偶の顔は仮面であるという考え方について二人の意見が一致し、さらに土偶の様式は日本列島に閉じず、北方や南方にも同様なデザインが見られることについて話が及びました。
特に、「鼻曲がり仮面」に二人が注目していることが分かったあたりからはマニアックな世界に没入していき話が終わる気配なし。
対談の進行役の「よう」さんとイベント企画者の「なかむら」さんも途中で質問を投げかけたり、自身の体験や意見を紹介することで、対談はさらに奥行きのあるものになったと感じました。
知的好奇心に満ち溢れた二人の対談、お楽しみあれ!