自分のやりたいことを言葉にしようとするとき、まず正論から語り始めるケースがたまに見受けられますが、その綺麗に整えられた言葉の奥底には、本人がまだ自覚していない強烈な原体験や当事者意識が眠っていることが少なくありません。
今回のセッションでは、対話を通じてクライアントがその核となるものに気がついた以降、それまで散らばっていた問題意識が一本の太い軸へと収束していく様子が印象的でした。
ぼやけた問題意識と全社施策へのこだわり
今回のクライアントは、組織内で社内キャリア支援の取り組みを立ち上げたばかりの方。前回のセッションで決めたアクションを即座に実行し、さっそく組織内で正式な枠組みとして認められるなど、着実な成果を出していました。
しかし、今後のキャリアで何をしたいかという話題になると、全社に影響が与えられるような大きな施策をやりたいという抽象的な表現に留まっていました。
若手の育成や管理職の面談スキルの不足など、語られる課題はどれも正しくもっともらしいものばかりでしたが、どこか焦点が定まらず、多方向に散らばっているように聞こえました。
問いが引き出した真のターゲット
プロコーチとしての僕の役割は、解決策を提示したり方向性を指示したりすることではありません。クライアントが本当に心を動かされている対象は誰なのか、そしてどんな状態を創り出したいのかを、自らの言葉で掴み取ってもらうための問いを投げかけ続けました。
対話を重ねていくうちに、クライアントの言葉の端々に繰り返し登場する特定の層があることが浮き彫りになってきました。それは、役職のステップアップが一段落し、この先の長いキャリアをどのように過ごすべきか見えづらくなっているミドル層・シニア層の現場リーダーたちです。
クライアント自身がその立場にある当事者だからこそ、周囲の無理解や漫然と過ごしてしまうことへの危機感、そしてロールモデルを失った若手への悪影響を誰よりも肌で感じていました。
全社施策をやりたいという大きな言葉の正体は、自分と同じ立場で葛藤するミドル層を救い、生き生きと輝かせたい、そして自分自身も輝きたいという切実な願いだったのです。
自ら導き出した最初の一歩
対話を通じてターゲットと創り出したい状態がクリアになったことで、クライアントの思考は一気に具体化しました。
全社という巨大な主語に圧倒されるのではなく、まずは自分が所属する組織の中で、ミドル層・シニア層を対象にしたスモールスタートの仕組みを考えてみるという次の一歩をクライアント自身が自然と口にしました。
その様子を目の当たりにして、問題意識が本物であればあるほど人は自ずと現実的なアクションを見つけ出すことができる、ということを改めて実感しました。
コーチの視点
人は時に自分自身の強い痛みや当事者意識から目をそらし、きれいな言葉や客観的で大きな課題設定という隠れ蓑を使ってしまいがちです。
コーチが安易に相槌を打ってアイデア出しに付き合ってしまうと、その施策はどこか他人事のまま進み、推進力を失ってしまいがち。
クライアントが発する言葉の熱量や無意識に繰り返されるキーワードを丁寧に拾い上げて、鏡のように返し続けることでクライアント本人が自分の本音と出会う瞬間が訪れる。そんなコーチングの醍醐味を再確認したセッションでした。
何をしたいんだろう
今回のセッションをベースにクライアントの気づきを楽曲に仕立てました。
[Aメロ]
「どこへ行きたい?」
そう聞かれても
行きたい場所じゃなく
変えたい何かがあったひとりの声を聴いた夜
言えなかった言葉があった
「もう一度、話してみます」
その顔を見て気づいた[サビ]
どこじゃなくて 何を
私は何をしたいんだろう
ひとりを支えるだけじゃ
きっと足りないから何百人 何千人
すべての声は聴けなくても
聴く人を支える仕組みなら
未来を変えられるかもしれない[Aメロ2]
「自律的なキャリア」
それだけで終わらせないで
社員に任せるだけじゃなく
会社は何をするんだろう面談する人の背中にも
迷いがあると知った
だから部長たちにも
伝えていきたい[Cメロ]
もっと広く もっと遠く
自分が会える人には限りがある
だったら仕組みをつくろう
人が人を支えられるように[ラストサビ]
どこじゃなくて 何を
やっと少し見えてきた
私は場所を探すんじゃなく
意味をつくりたいよんじゅう代も五十代も
若い人たちもその先も
漫然と歩く毎日じゃなく
自分のキャリアを生きてほしいそしていつか
「私も救われた」と
笑って言えるようにひとりじゃなく
一緒に変えていく

