「リーダーになってほしい」という上からの期待と「自分には向いていない」という不安の間で揺れ動いた経験を持っている人も多いのでないでしょうか。
今回ご紹介するセッションは、上司からの期待を素直に受け入れられずモヤモヤを抱えていたある40代女性クライアントの事例です。強みに縛られ、自らブレーキを踏んでいた状態から、どのようにして自分らしい一歩を踏み出せるようになったのか、その軌跡を詳しく解説します。
※本人の許可を得て公開しています。
上司からのフィードバックに感じたモヤモヤの正体
クライアントは、現在の部署に異動して4ヶ月ながら、仕事の成果を認められて上司から「リーダー候補として推薦したい」と打診されました 。しかし、同時に「リーダーになるためには、もう一つ上の視座を持ち、積極性や自信を持って発言してほしい」というフィードバックを受け、心にモヤモヤを抱えていました。
このモヤモヤの背景には、クライアント自身の強みに対する自己認識がありました。クライアントは人間関係の構築力が高く、周囲の意見を優先するタイプであり、人の上に立って目立つことや、自分の意見を押し通して突き進むリーダー像に強い苦手意識を持っていたのです。
自分には積極性の資質がないため求められるリーダーにはなれないと考え、上司の期待に応えたい思いと、自分を曲げてまで無理をしたくない思いの間で葛藤が生じていました。
無意識に踏んでいたブレーキと失っていたもの
セッションを通じて対話を深めていく中で、クライアントが意見の発信を避けてしまう本質的な原因が浮き彫りになりました。
それは、自分の提案が否定されることで自分が否定されたように感じてしまうという心理的な恐怖心です。過去に大勢の前で笑われた経験や、発言した人が陰で叩かれている姿を見た経験から、周囲と違う意見を言って傷つきたくないという強いブレーキが働いていました。
クライアントは、現状維持の選択をすることで否定されない安心感(心理的安全性)を得ていました。しかし、コーチからの問いかけによって、その裏で多くのものを失っていることに気づきました。
- チームの改善機会:職場をより良くするためのアイデアを持っているにもかかわらず、発信しないことでチームの進化を止めていたこと。
- 上司からの評価:自分の考えていることが周囲に伝わらず、積極性がないと上司から見られていたこと。
- 自分らしさと満足感:周囲の目を気にして自分の意見を我慢することで、自分らしく生き生きと働く喜びや発言した後のスッキリ感を失っていたこと。
特に「自分らしさを失っていた」という言葉は、クライアント自身が深く納得した大きな気づきとなりました。
思ったことを言うキャンペーンの原点とパラダイムシフト
ここでクライアントは、自身がこの1年間ひそかに実践してきた「思ったことを言うキャンペーン」という取り組みを思い出します。これは、「周囲の目を気にしてやりたいことも言えず、心理的安全性ばかりを優先しているのは自分らしくない」という危機感を持ったことから始めた自己変革のチャレンジでした。
このキャンペーンを通じて、クライアントは「自分が発言した内容を相手がどう受け取るかは他人の課題であり、自分にはコントロールできない」という境界線の引き方を少しずつ身につけていました。勇気を出して思ったことを言葉にすると、心の中がスカッとする感覚や自分らしくいられる満足感も経験していたのです。
今回のモヤモヤも、根底にある構図は全く同じでした。上司の推薦をきっかけに周囲の目が気になり、せっかくそれまで自分の中で続けてきたキャンペーンを忘れて再び殻に閉じこもりそうになっていたことにクライアントは気づきました。
彼女は他人の反応と自分の行動を切り離して考える原点に戻ったことで、上司から求められている積極性を自分の枠組みで再定義できるようになりました。リーダーシップには、グイグイと前に立って引っ張るスタイルだけでなく、様々な形があります。クライアントは、自身の強みである高い傾聴力やコミュニケーション力を活かし、「上に立つのではなく、下からメンバーを押し上げ、支えるリーダー」を目指すという自分なりの答えを導き出しました。
発信しないことのデメリットを理解した上で、「捉え方は人それぞれ。私は私のままで、下からチームを支えるために意見を発信していこう」と、次の期に向けて前向きな一歩を踏み出す意欲を見せてセッションは終了しました。
コーチの視点
今回のセッションは、コーチングが持つ自己認知のアップデートという価値が鮮明に現れた時間でした。クライアントは当初、自身のストレングス(強み・資質)を「だから自分はリーダーに向いていない」という言い訳や制限の枠として使っているように見えました。しかし、本当に向き合うべきは資質の有無ではなく、否定されたくないという恐れから無意識的に自らブレーキを踏み、結果として大切にしたかった自分らしさを損なっていたという構図でした。
コーチとして一貫して行ったのは、クライアントの持つポテンシャルを信じて、彼女が失っているものを直視することを促したことです。人は以前から自然と身につけた無意識の防御本能に従うあまり、本当の目的や大切にしたいことを見失うことがあります。心理的安全性という目先の安心を手放した先にしか、本当の自分らしさやチームへの真の貢献はないと自ら気づけた瞬間、クライアントの表情はぐっと大きく変わりました。
リーダーシップのスタイルに正解はありません。上司の言葉をそのまま受け取るのではなく、自分の強みと統合させて「下から支えるリーダー」という独自の役割を見出したクライアントは、これからチームにとって欠かせない心強いリーダーへと進化していくはずと確信しました。
Not Loud, Still Leading
そんな彼女の気づきをモチーフにして、5曲をプレゼント。
[Verse 1]
4ヶ月前に変わった景色
まだ借り物みたいなデスクの匂い
上期の終わり 面談のあと
「次はリーダーだね」って笑う声うれしいはずなのに
胸の奥 少しざわついた
前に立つより
隣で支える方が ずっと得意だったから[Pre-Chorus]
「もっと自信を持っていい」
その言葉を飲み込めなくて
頷きながら心は
まだ静かな場所を探してた[Chorus]
目立たなくても
ちゃんと誰かを照らしてた
強く引っぱるだけが
リーダーじゃないって気づき始めてる声を張らなくても
寄り添う力があるなら
私らしい視座でいい
怖くても 次の景色へ[Verse 2]
周りを優先してしまう癖も
空気を読んでしまう夜も
全部 弱さじゃなくて
誰かを見てきた証だった「積極性が足りない」
その言葉だけ切り取れば痛いけど
期待されることから
逃げない自分にも気づいてた[Bridge]
完璧な人にならなくていい
得意な誰かの真似じゃなくていい
小さくても 自分の言葉で
一歩だけ前に立てたらいい[Chorus]
目立たなくても
ちゃんと信頼は残ってく
優しさを持ったまま
前へ進める人でいたい怖がりなままでも
未来はちゃんと開いてく
向いてないを超えて
今日より少し高い場所へ[Outro]
下期のページをめくる
まだ不安は消えないけど
「どうしようかな」って迷うことさえ
きっと 変わり始めた証拠だ

