かねてから興味があって何冊か本を読んでいたコーチングですが、より実践的に学ぼうと思い、BCS認定プロフェッショナルビジネスコーチによる2日間のビジネスコーチング研修を受けてみました。
コーチングについて基本的な知識を体系的に学べたほか、学んだ内容をもとにコーチングを実践する機会も得られて非常に有意義でした。
※画像はGoogleが公開した生成AI(ImageFX)で作成しました。
コーチングの肝
コーチングに関しては何冊か本を読んで興味を持っていました。
中でもコーチングに関して僕が重要だと感じたポイントは、
- 答えは相手の中にある。
- 人は他人から言われたことはやりたくない。
というコーチングの基本的な考え方。
特に僕は人から相談されると有益な助言をしなきゃと思ってつい喋りすぎてしまいます。また、良かれと思って色々な施策案を考えて、こうしたら良いのでは?とアドバイスをしたがります。
一方で、コーチングでは、まず相手が問題の本質を自ら解きほぐして気づくこと、その真因について本人が考えを巡らせることを大切にします。
コーチとの対話を通じて、漠然としていた課題が次第に明確になり、解決策も自然と自分で考えられるようになっていきます。
そして、最も重要な点は、自ら考えた選択肢の中からまず取り組むべきアクションを自ら選び、コミットしてもらうこと。
人から指示されたのではなく、コーチングの過程で自分で考えて宣言したアクションは納得性が高いので「やってみよう」という気持ちになります。これは実際にプロのコーチングを受けてみると深く実感できます。
コーチングの5つの基本スキル
ラポール
ラポールとは心と心の繋がりのこと。コーチングでは、お互いが相手を信頼して本音で話せる環境づくりが不可欠です。
ラポール構築のスキルの1つで印象的だったのは、ペーシング。表情や態度、話し方を相手に合わせることで相手は話しやすくなります。また、相手が繰り返し使うキーワードに気づいたら、同じキーワードを使って話す等。
ただし、信頼は日々の小さなことの積み重ねなので、例えばパワハラ気味の上司が部下にコーチングしようと思っても部下は身構えてしまうでしょうから、こればかりは一朝一夕にはいきません。コーチング以前の課題ですね。
傾聴
僕が特に意識して身につけようとしているのが傾聴スキルです。ついつい自分が話してしまいがちなので反省の念を込めて。
- 先入観を持たずに評価をせずにニュートラルなスタンスで、まず相手の話を最後まで受け止める姿勢で聞く。これは相当に意識しないとできない。
- 共感しながら聞く。
- 共感と同感は違うので注意。内容に同意できなくても共感を示すことはできる。
- 相手の気持を理解して共感を示す。「それは嬉しかったですね」
- 相手の話した内容に理解を示す。理解した内容を要約して伝え、自分の理解が正しいか確認する。
承認
- Acknowledgement
- 行動だけでなく存在そのものを認める。挨拶する、名前を呼ぶことも承認。
- 相手に考えてもらうためには、自信を持ってもらうことが重要。
- 結果だけでなく努力したプロセスを認める。
- 人によって承認してもらいたいポイントが異なることに注意。よく観察して、その人に響く観点から承認することが効果的。
フィードバック
- 良い点のフィードバック(承認)
- 目標達成のために効果的だと思った点について継続してもらえるように伝える。
- 改善点のフィードバック
- 相手の成長を願って、「私からはこう見えているよ」と伝える。
- 批判された、攻撃されたと思われないように客観的な事実に基づいて、具体的に行動レベルでタイムリーにシンプルに伝えることが効果的。
- アドバイスの一歩手前で止める。
- YouメッセージではなくIメッセージで伝える。
- 「あなたは〜ですね」ではなく、「私は〜と感じた」と伝えると受け入れられやすい。
質問
人は自分だけで悩んでいると思考がグルグルと停滞しがちですが、人から質問されると回答するために考え始めるもの。
また、自分で答えを探してアクションを選択することで当事者意識が高まるもの。
コーチングでは、コーチが相手に効果的な質問を投げかけることで本人に考えてもらうこと、そして自分の口から回答を話してもらうことが重要です。そのための効果的な質問をするための観点がこちら。
未来
カウンセリングではないため、過去を振り返るのではなく、どんな状態になりたいか?という未来志向の質問が基本。
過去について聞くのは、今までにできていること、過去の成功体験を引き出したい時(その時はどんなやり方をしたのですか?)などに限定される。
肯定
「なぜできなかったのか?」等の否定的な質問は避けて、肯定的な質問(どうすればできるようになると思うか?等)を心がける。
Whyに注意
特にエンジニア等は「なぜ?」と聞きがちだが、相手は責められているように感じがち。
「どうして〜したのか?」ではなく、「〜した理由は何だと思う?」と whatで聞くだけで相手の抵抗感は減る。
チャンクアップ
表面的な回答に対してより抽象的に質問をすることで、相手の回答の背景にある願望や意図等を確認する。
「目標を達成する目的は?」「目標を達成できるとどんな状態になっている?」
チャンクダウン
漠然とした回答に対してより具体的に質問することで、行動に移しやすい具体策を考えてもらう。
「具体的に何をすると良い?」「選択肢には何がある?」など。
促す質問
- 「他には?」
- 問題の抜け漏れを確認する
- 複数の選択肢を創造する
- 答えが出てくるには時間がかかることも。我慢して待つ間が大切。
- 沈黙する時間も重要
- 状況を見て、考える切り口、ヒントを与えたり、「時間を置いてゆっくり考えていいよ」と声がけするのも有効
コーチングの5つの流れ
コーチングでは、5つの基本スキルをベースとして実践しながら、次の5つの流れに沿って質問をしながら対話を深めていきます。
この流れは上から下に一直線に流れていくものではなく、例えば現状の把握をしている際に目標設定に無理があると感じた場合は「目標の明確化」に戻る等、臨機応変に対応します。
解決策の案が複数出てきたら、本人に選んでもらい、いつから何を始めるか、いつまでに完了させたいかについて自分の口から説明してもらうことがポイント。人は他人に言われたことはやりたがらないけれど、自分が言ったことは守ろうとする、という人間の本質を信じるのがコーチングの肝です。
目標の明確化
- 最終目標、中間目標、本セッションの目標
- チャンクアップの質問で、目的や意図、ビジョンを確認する。
- 適切な目標か確認する。
- 達成したらどんな状態になる?
- いつまでに達成する?達成できる?
- どうしたら達成したとわかるか?
現状の把握
- 10点満点で現在の自己評価は何点?
- これまでにやってきたことは?(いつ、誰と、どんな風に、結果は?)
- できていることは承認
- 残りをカバーするには何ができるようになれば良いか?
- 「感じた点をフィードバックしても良いか?」
- 相手の強み、効果的だった取り組み、不足している点など
課題の明確化
- 目標達成のために解決するべき課題は?
- 他責の課題が目立つ場合は、「自分の努力で解決できることは?」
解決策の検討
- 課題を解決するために活用できるリソースは何か?
- 人、モノ、金、情報、時間、過去の成功体験等
- 視点を変える
- もし顧客、上司、部下の立場だったら?
- 自分の言動を変えるとしたら何をどう変える?
- 私が〜さんだったらどんなアドバイスをしますか?
- 強みは?この課題解決にどう活かせるか?
- アドバイスする場合は慎重に。
- 相手の許可を得る
- 簡潔に伝える
- 解決策の選択肢に加えてもらう
実行の意思確認
- 解決策を選ぶ
- 選択肢のメリット、デメリットは?
- どの解決策を選びたいか?何から始めるか?
- 実行可能か?
- 実施した場合、どんな影響が出そうか?
- 時間軸
- いつから始めるか?いつまでに完了させたいか?
- コミットメントを引き出す
- 達成できそうか?
- やろうとしていることを説明してみてください
実際にコーチングをやってみた
研修の2日目は演習を多めに実施しました。僕がコーチ役で、ZOOMで参加しているもう1名の女性PMの方がコーチを受ける役、講師の方がオブザーバーという役割です。2回目は役割を交代して、今度は僕がコーチを受ける役に。これを2セットやってみました。
1セッションを15分。短いようですが、実際にコーチ役をやってみると分かりますが、7割方は相手に話してもらいながら、しっかり傾聴しつつ、自然な流れで効果的な質問をして対話を深めていくのは大変です。
それでも2セットやってみると、自分なりにうまくできた点と意識して改善するべき点が見えてきます。何よりも、実際にペアとなった女性をコーチしていく過程で本人も気がついていなかったような課題や解決策に自身が気づく瞬間があった時は感動しました。
コーチング後に彼女から「話を聞いてもらうことで自分のモヤモヤしていた課題が明確になり、思いもつかなかったような解決策に辿り着くことができた」とフィードバックをもらえました。同時に、僕も今の課題について彼女に話を聞いてもらうことで一人で悶々と考えていた時と比べてクリアに状況を理解し、やるべきタスクが整理できたことを実感しました。
2日間の研修を受けただけでもこれだけの効果を体感できたのは驚きでした。コーチングは部下との面談のような場だけでなく、上司や顧客との会話、さらには妻や子どもとの会話等、様々な局面で応用できるコミュニケーションの基本的なスキルです。
今後、このコーチングを日々実践しながら、スキルを身に着けていくのが楽しみです。