「スマホ脳」がベストセラーとなった、スウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセンの「運動脳」を読みました。
あえて一言で本書の結論を言うならば、「走ると心身ともに健康になるから、とにかく走るべし」ということに尽きます。「そんなこと知ってるよ」と思った方で日常的に走る習慣がない方は、それでも本書を読む価値があります。
というのも、なぜ運動(特に走ること)が心身の健康に繋がるのか?について古今東西の様々な研究成果を紹介しながらひたすら語り倒す本書を読むと、もはやじっと読書などしていられなくなるから。そうして外に出て走り出すきっかけになるなら、こんなに費用対効果の高い読書はありません!
あなたの頭脳は「たった1秒」で激変した
人類(ホモ・サピエンス)の誕生を0時として現在を24時とすると、インターネットが登場したのは23:59:59だそうです。
つまり、人類が誕生した時から僕らの脳は生物学的には当時からほとんど同じである一方で、農耕が始まり、工業化社会となり、インターネットが普及するといった昨今の環境変化はあまりに急激であるため、現代に生きる我々は脳の処理能力が追いつかない状況になっていると筆者は説きます。
この事実が現代人の心身を蝕む原因です。だからといって、原始人のような生活スタイルに戻るわけにもいきません。そこで、運動の出番!
要するに、一般的な現代人は100年前の人間とも1000年前の人間とも、1万年前の人間とも遺伝子的には変わらないのである。
p.344
よく考えてみてほしい。人類の歴史において、ほんの短期間に生活様式がことごとく変わり、それによって身体を動かす必要性は半分に減った。人類の進化が何万年もの年月をかけて緩やかに進むことを考えると、私たちの生活様式は、脳の進化の速度をはるかにしのぐ速さで変わったことがわかる。生活様式の変化に、肉体が追いついていない状態だ。
生物学的には、私たちの脳と身体は今もサバンナにいる。私たちは本来、狩猟採集民なのである。
この事実を、これまで述べてきた内容――運動をすれば、脳の機能が強化される。気分が晴れやかになり、不安やストレスが和らぐ。創造性が増して、集中力が高まる。逆に身体を動かさないと不安にとらわれて悲観的になる。物事に集中できなくなると合わせて考えれば、現代人を悩ませる「あらゆる心身の不調」は、身体を動かさなくなったことが原因だと考えていい。
人類は、「生物としての歩き方」が間違っているのだ。
生物としての人間は狩猟採集民族に最適化された形で脳がプログラミングされており、種として生存に直結する行動(主に走ること)を推奨するように脳内の報酬体系が作られている、ということが様々な研究成果から実証されてきたそうです。
こうした事実を踏まえると、現代に生きる我々の日常生活がいかに心身の健康を害するか、裏返すとどうしたら心身ともに健康になれるのか、といったことが自然と見えてきます。
世界のストレス研究がこぞって「運動の効果」を発見中
運動を終えるとコルチゾールの血中濃度が下がり、次回からはあまり上がらなくなる。また、ストレス反応のブレーキペダルである海馬と前頭葉が強化され、不安の引きがねである扁桃体の活動が抑えられる。
p.87
さらに、「ニューロンの乳母」が増え、脳内の興奮を鎮めるGABAの作用が活発になる。加えて筋力がつき、ストレス物質を無害化する働きが促進される。
こういったすべての効果が、一挙に得られるのである。
動機が激しくなる等のストレス反応を引き起こすコルチゾールは運動することであまり上がらなくなるほか、運動に伴って様々な体内の仕組みがストレスを効果的に解消する方向に自然と働くことが世界中の様々な研究から明らかになってきています。
本書で紹介されている、精神科医である筆者が実際にうつ病の患者に運動を勧めて劇的に症状が改善するのを目の当たりにした事例等は説得力があります。
一方で、抗うつ薬のマーケットは巨大であるため、製薬会社からするとこうした研究成果は「不都合な真実」であり広く知られていないと著者は指摘します。
賢くストレス・不安を解消する
だが、もしあなたがジョギングに出かけて何事もなく走り終えたとしても、やはり動悸は激しくなる。ところが走り終えたときに気分は穏やかになり、脳内でエンドルフィンとドーパミンと呼ばれる物質が放出されて快感を覚える。
p.105
つまり身体を動かすことで「心拍数や血圧が上がっても、それは不安やパニックの前触れではなく、よい気分をもたらしてくれるものだ」と運動が脳に教え込むのである。
最近はじめたジム通いでは、時速11kmで10分ほど走ります。心拍数はピークで170前後まで上がり、うっすらと汗をかく程度ですが、走り終わったあとはちょっとした達成感と心地よい爽快感をいつも感じることができます。
本書を読んで、これが脳内の報酬体系からくるご褒美だったんだと理解しました。
抗ストレス体質を培うプラン
まずはランニングやスイミングなどの有酸素運動をお勧めしたい。ストレスの緩和が目的なら、筋力トレーニングよりも有酸素運動のトレーニングのほうが効果がある。少なくとも20分は続けてみよう。もし体力に余裕があれば、30~45分続けよう。
p.108
それを習慣にしよう。長く続ければ、さらなる結果が期待できる。 海馬と前頭葉、つまり脳内のブレーキペダルが強化されるには少し時間を要する。
また、週に少なくとも2、3回は心拍数が大幅に増えるような運動をしよう。たとえ動悸が激しくなっても、脳はそれが恐怖から来るものではなく、プラスの変化をもたらすものであることを学習する。深刻な不安障害やパニック発作の症状がある場合は、とくに効果があることを強調しておきたい。
ストレス緩和には有酸素運動が有効とのこと。
今は週に5回ほどジム通いが継続できているので、筋トレとセットで行っているトレッドミルでのランニングはぜひ継続したいと思います。
集中物質「ドーパミン」を総動員する
なぜ運動が、ADHDの傾向のあるなしにかかわらず集中力を改善するのか。その最も大きな理由はおそらく、運動によってドーパミンの分泌量が増えると、注意力と報酬系のシステムがうまく調整される(報酬中枢の側坐核にドーパミンが行き届いて、「今やっている行動は続ける価値がある!」と判断する)ためだろう。(中略)
加えて、身体に与える負荷が多いほど、ドーパミンの分泌量も増えるようだ。そのため、ドーパミンの量を増やすには、ウォーキングよりもランニングのほうが適している。
p.138
初めてランニングやサイクリングをしたときに、すぐに気分がよくならなかった、あるいは集中力が改善されなかったからといって、あきらめてはいけない。ドーパミンは、運動時間が長くなるにつれて増えていくからだ。
脳は、徐々にドーパミンの量を増やしていくと考えられている。
そのため、トラックを回る回数を増やせば増やすほど、報酬としてドーパミンがたっぷり放出される。また、ドーパミンには幸福感をもたらす効果もあるため、運動を終えるたびに心地よい気分になる。すると、集中力もさらに高まる。
いいかえるなら、運動は集中力の改善にすぐれた効き目を発揮する、副作用のまったくない薬だ。しかも運動の時間が長ければ、それだけ効き目もはっきりと現れる(だからといって無理は避けるべきだが)。
まずは20分を目標にして、少しずつ走る時間を伸ばしていこうと思います。
ドーパミンは運動した直後から分泌量が増加し、数時間はその状態が継続するとのこと。そのため、ドーパミンによって運動後は感覚が研ぎ澄まされて、集中力が高まり、心が穏やかになるという効果が期待できるそうです。
そういう意味では、朝、疲れない程度に軽くジョギングしてから朝食、そして仕事に入る流れができるとベストだと思います。週の大半がテレワークのため、通勤の代わりに朝食前にジムに行く流れを定着させたいです。
ランナーズ・ハイ
いまや「ランナーズハイ」という言葉を知らないランナーはまずいないが、実際にそれを体験した人はさほど多くない。その感覚は並外れたもので、いくらか爽快だという程度ではない。運動が私たちの精神におよぼす様々な影響のなかで、「ランナーズハイ」は群を抜いて強烈な感覚なのである。
p.196
私自身は二度、体験している。それは魔法としかいいようがなかった。運動を終えたときに感じる爽やかな達成感とは完全に違う。あらゆる苦痛が消え去り、この上ない幸福感に包まれ、頭のなかは冴えわたり、疾風のように速く、どこまでも永遠に走っていられるような気分になるのだ。その感覚はあまりにも鮮烈なので、一度経験したら忘れられない。
もし自分が感じているものがランナーズハイといえるのかどうか確信が持てなければ、それはおそらくランナーズハイではない。
ランナーズハイはモルヒネでもたらされる高揚感と酷似しているため、理論上はエンドルフィンがその要因だといえる。
研究では、少なくとも45分は走らないとランナーズハイは訪れず、また、頻繁に走れば走るほどランナーズハイになる可能性が高まることがわかっている。また、脳内でエンドルフィンが放出される量も、運動量が増えるほど増加するという。つまり、ランナーズハイになりやすくなる。
p.202
だから、あきらめないことだ。とはいえ、誰もがランナーズハイになるわけではない。絶対という保証はないのだ。
ランナーズハイは話には聞きますが体験したことはありません。少なくとも45分は走る必要があるというのはなかなかのハードルですね。
ただ、頻繁に走るほど体験できる可能性も上がるということなので、いつか体験できることを目標にランニング時間を伸ばしていけるといいなあ。
実は、僕はコロナ前はとにかく歩くのが嫌いで買い物などのちょっとの距離でも自転車に乗っていました。それがコロナ禍でテレワーク中心の生活スタイルに変化してから明らかに運動不足を体感し、まずは歩くことから始めることにして以来、一切、自転車には乗らない生活に切り替えて2年以上が経過。
そして、肘を痛めてテニスをお休みするようになったのがきっかけて通いはじめたジムでランニングを始めました。歩くのも嫌いだった僕は、とにかく走るのが大嫌いでしたが、ジムのトレッドミルで少しずつ走り始めたところ、意外にも走り終えた後の爽快感がクセになり続けられるように。
そんな矢先に本書を読んで、それが人類に備わっていた基本原理に基づいていたことを知り、ますますランニングの重要性を理解することができました。本書を読めば、もう走らずにはいられなくなるので、運動嫌いの方、走るのが嫌いな方には特にお勧めします!