読書メモ

友情 平尾誠二と山中伸弥「最後の約束」

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日本ラグビーのスター、平尾誠二さんと、iPS細胞の研究でノーベル賞を受賞した山中伸弥教授がどうやって出会い、友情を育んでいったのか、そしてガンと戦ったのかを綴った「友情」を読みました。

2010年、雑誌の対談で初めて出会った二人は急速に仲良くなり、やがて親友と呼べる関係になった。出会ったときはすでに40半ばを過ぎ、二人とも超のつく有名人。でも、そんなことは一切関係なく、ただ気のあう男同士として酒を酌み交わし、家族ぐるみで食事を重ねた。こんな関係がずっと続けばいいーー。お互い口に出さずともそう思っていた矢先、友・平尾誠二に癌が宣告される。山中伸弥は医師として治療法や病院探しに奔走。体調は一進一退を繰り返すが、どんなときも平尾は「先生を信じると決めたんや」と語る。そして、永遠の別れ。山中は「助けてあげられなくてごめんなさい」と涙を流した。
大人の男たちの間に生まれた、知られざる友情の物語。

Amazonより

山中さんが神戸大学医学部でラグビーをやっていたこともあり、高校生の頃から平尾さんに憧れていたそう。そんな片思いの経緯もあり、縁あって出会った二人の友情の物語です。

第3章は2010/9に二人が出会うきっかけとなった「週刊現代」の対談が未公開部分も含めて掲載されています。様々なトピックについて二人が意見を交わしていますが、立場こそ違えど、業種や業界を超えて当てはまる示唆に富んでいます。

二人の友情物語はぜひ本書を読んで頂くとして、このエントリーでは、二人の対談の中から特に印象に残ったくだりをメモしておきます。

なお、本書で「平尾イズム」に興味を持った方は、平尾さんの著書「理不尽に勝つ」もお勧めします。平尾さんのラグビーにおける様々なエピソードを通して仕事や子育てにも通じる本質的なメッセージが伝わってきます。

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リーダーシップのとり方

p.175 
平尾 フィールドの中でリーダーシップを誰がとるかで決まっていきますよね。それはすごく大事な要素です。

山中 僕らの研究所にも現場監督みたいな人がいて、やっぱり彼ら次第ですよ。僕は全体の方向性については言いますけど、研究が成功するかどうかは、二十人ぐらいのチームリーダーがしっかりやってくれるかどうかにかかっているんです。

平尾 その人たちとコミュニケーションを取りながら進めていく。

山中 そうですね。でも、全体の方針とか、世界の研究は今どんな状況だとかは、やっぱり僕が示さないといけない。

企業内で仕事をしていると幾つかの顔を使い分ける必要があります。ある程度、シニアなポジションになると、複数のプロジェクトを並行で進める必要があり、いずれの場合でも何かしらリーダー的な役割を求められるもの。

プロジェクトの内容や自分の立場、当該分野における自分の経験や知識、そして現場リーダーの実力や彼らと自分との信頼関係等によって、一言でリーダーと言っても様々なリーダーシップのとり方があり、使い分ける必要が出てきます。

例えば、自分よりも現場リーダーの方が経験や知識を持っている場合は、下手に細かい指示やチェックはせずに基本的に現場はリーダーを信じて任せること。その代わりに、上司として徹底的にそのリーダーを支える、例えば顧客や社内のマネジメント層との報告や折衝を自分が一手に引き受けてリーダーが現場に集中できる環境を整えることに徹するのも1つのリーダーシップの形です。

いずれの形であれ、いざという時にどちらの選択肢を取るか、最後の決断はリーダーの仕事であり、その結果の責任はすべて引き受ける覚悟を持つことがリーダーの仕事。

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「ミスしたらあかんモード」では勝てない

p.178 
平尾 しばかれるとか怒られるとか、外発的なプレッシャーでやらされているチームというのも、ある程度までは上のステージに行けるかもしれないけど、絶対に一番にはなれないです。なぜなら、「ミスしたらあかんモード」に入ってしまうから。
 人間って、「誰かに怒られるからミスしたらあかん」と思うと、知恵が働かなくなって、さらにハイクオリティのところにいけなくなってしまうんです。(中略)

山中 やっぱり内発的に「自分からやろう」と思う集団にならないといけない。

平尾 それで新しいものが、いろいろ工夫されていく。僕は、そう思うんですよね。

ミスを恐れているチームだけでなく、成功報酬等の外発的な動機づけだけで動くチームも限界があると感じます。

ポイントは、山中さんの言う「内発的に自分からやろうと思う集団」を作れるかどうか。そのためには、リーダー自らのスタンスや姿勢が大切。もし、リーダーが「やらされ感」で動いていたら、メンバーにも自然と伝わるものです。

リーダーには自分自身のモチベーションを高めて、メンバーを巻き込む力が求められます。どんな地味な仕事でも何かしらの必要性、価値があるはず。そこに目を向けて、ビジョンとしてメンバーに示すのがリーダーの仕事。

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経験のなかで自信を獲得する

p.184
平尾 気持ちというのは、訓練や経験を積み重ねながら獲得していくものですからね。自信がない奴というのは、最後の最後、本当は有利なのに、なんか不利なような気持ちになってるでしょ。これも経験不足からくるものですよね。
 僕、先生の本を読ませていただいて、山中伸弥はいろんな経験をするなかで、「しゃあないな、こんなこともあるよな。でも、なんとかなるさ」みたいな「切り替え力」を体得していると思った。これまでにはネガティブな経験もあったでしょ?

山中 はい。

平尾 でも、それがある状況によって、一気にいい方向に変わることもいっぱいあるんですよね。それを経験している奴は強いですよ。経験していないと、ちょっとしたことで「ダメモード」に入ってしまう。そういう奴が、たくさんおりましてね。

失敗や挫折の経験、辛い状況で耐え忍ぶ経験はできれば避けたいもの。でも、長い人生、いいことばかりある訳はなく、誰しもが「何で自分がこんな羽目に…」と思うような境遇に置かれることは必ずあるものでしょう。

その最中にいる時は何とか課題を解決するために必死にもがき続ける辛い時間ですが、明けない夜はないように必ずふっと楽になる時が訪れます。

そして後から振り返ると、そういう「苦しいときこそが上り坂」で、今までとは違った景色が見えるようになっている自分に気づきます。こうした経験をどれだけ積んできたかが、いざという時のいい意味での開き直り、覚悟、腹の据わり方につながるもの。

…と書きながら、今から16年前、MBA留学中に書いた懐かしいブログ記事をふと思い出し&久しぶりに読み返して、かつての自分から背中を押してもらった気持ちになりました。

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10人対100人の綱引きに勝つには切り札を持て

p.198
平尾 先生、iPS細胞の研究でアメリカはものすごい額の研究費を出しているんでしょ?ラグビーもそうですけど、iPSの研究でもアメリカとか世界の壁は非常に高いやないですか。これに立ち向かっていくのは相当に大変なことだと思うんだけど。

山中 本当にその通りで、アメリカとの力の差は歴然としています。(中略)
相手は百人でこっちは十人。力勝負で挑むのはちょっと無理なんで、そこはもう工夫するしかない。相手が気づかないような、でも非常に大切なこととか、大切だけれども向こうの人が面倒臭がってやらないようなことを、日本がやることが大事です。(中略)
だから僕ら、綱引きの綱を作るようなことを考えているんです。「アメリカと綱引きしたら負けます。でも、綱は日本でしか作れないんだ。アメリカは強いかもしらんけど、綱がなかったら綱引きはできへんやろ」というようなものを。(中略)

平尾 僕は以前から言っているんだけど、勝負というのは自分たちの持っている優位性で勝負していかなければ勝てない。ラグビーやったら、日本は外国の強いチーム相手に、選手単体の力、体格、スキルでは勝てない。人と人とがぶつかった、ある種の付加価値で勝っていくしかないんです。
 科学でも産業でもスポーツでも、これまで日本が勝ってきたのはニッチの部分、つまり細かな隙間みたいなところに、非常にハイクオリティなものを提供してきたことだと思うんです。それが日本の優位性。よくよく考えれば、そのニッチな部分が、先生がおっしゃる「綱引きの綱」。そこに1%の勝機があると思うがゆえに、モチベーションが保てるし、ここ一発の根性も出る。勝機が1%もないのに、根性なんか出るわけがない。
 その1%の勝利の可能性をどう残すか、どう追求していくかが、多分、これからの重要なテーマだと思いますね。

p.206
山中 iPS細胞の研究において絶対に作らなければならないと僕が思っているのは、「これがあるから日本を無視できない」と外国から一目置かれる技術です。(中略)

平尾 切り札は一枚でもいいと思う。それが決定的に状況を変えるカードやったら、一枚で形勢を逆転できる駆け引きの仕方もあると思うんですよ。

山中 一番困るのは日本が無視されることです。(中略)
バイオ産業の投資でも、アメリカの投資家の目は日本ではなく中国にばかり向いている。iPSの技術は、アメリカの投資家がバイオ技術で日本にも目を向ける大きなチャンス。(中略)
研究の切り札は一、二年で簡単にできるものじゃないので、五年十年かけて一枚でもできればいいと思っています。負け惜しみもあるかもしれないけれど、「他はどうぞ皆さんやってください。でも、ここだけは僕らが押さえていますよ」というものを持とうと、一生懸命、研究をしています。

平尾 肝やな。世界を相手に戦うには、やっぱり肝を押さえんといかんですよ。

切り札を何にするか?

これは日本という国が世界で生き残るためになすべきことを考える際の重要な観点であり、企業にも、そして個人にも当てはまる問いです。

一流のアスリートと研究者が育んだ、かっこよくて切ない大人の男の友情物語、そして熱いメッセージが込められた1冊です。

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