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経営の未来 The Future of Management

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経営に関する本はビジネススクール在学中も含めていったいどれだけ読んだことでしょう。

一般的な経営管理の仕組みについてはMBA過程で理論を学び、日々の仕事を通じて実践している訳ですが、経営者の参謀として事業計画・営業戦略・要員計画等を立案・管理し、あるいは兼務している顧客営業として現場の最前線で折衝するにつけて、今の経営管理の仕組みの限界を感じる一方で、より人間らしい働き方を引き出せるような経営の仕組みについて考える機会が増えてきました。

そんな中、「経営の未来 The Future of Management」ゲイリー・ハメル(日本経済新聞出版社)を読んで、まさに次世代の経営管理モデルが今こそ求められているという直感を得ました。

ロンドンビジネススクール教授で、「コア・コンピタンス」を提唱したことで有名な著者は、この100年で科学技術は格段に進歩を遂げた一方で、会社のあり方、組織のあり方、社員のあり方については産業革命後に確立された考え方から基本的にはほとんど変わっていないと指摘します。

p.180 意欲のない社員。抑圧されているイノベーション。柔軟性のない組織。新しい世紀になったにもかかわらず、我々は依然として、ほぼ100年前に生み出された経営管理モデルの副作用に悩まされている。

p.70 現代の組織には人間の天性のしなやかさや創造力を枯渇させるもの、社員からこれらの資質を奪い取るものがあるようだ。その正体はというと、規律、時間厳守、経済性、合理性、秩序を促進し、芸術性、不従順、独創性、大胆さ、情熱にはほとんど価値を置かない経営管理の原理やプロセスである。簡単に言うと、ほとんどの企業が、我々を人間たらしめている資質や能力のごく一部しか受け入れる余地がないため、部分的にしか人間的ではないのである。

p.80 典型的な経営管理会議-戦略、予算、人事、その他について議論する会議-に出席してみると、右脳思考が明らかに欠けていることに気づくだけでなく、出席者に心があることを示唆する発言さえ、事実上まったく耳にすることはないだろう。美、真実、愛、奉仕、英知、正義、自由、思いやり。これらは歴史を通じて人間を非凡な業績へと駆り立ててきた道徳的使命である。経営管理の言葉にこれらの価値を受け入れる余地がほとんどないのは、きわめて残念なことだ。

特にビジネススクールで経営管理を学び、ビジネスマネジメントの実施要領が体系的に整備された大企業で働いていると、トップダウンで設定された経営目標を達成するべく、各組織に落ちてくる目標値をクリアするための事業計画を策定し、そのための営業戦略、要員計画を立ててプロセス管理を繰り返しながら予実管理を徹底していく・・・という一連の作業については疑う余地もないままに数値目標に踊らされてしまいがち。

でも、こうした本業の傍らで立ち上げた社内SNSの活動を通じて、ピラミッド型のヒエラルキーとは違った組織のあり方や評価のあり方の可能性について考えさせられることがしばしばです。

  • もっとワクワク仕事ができるやり方があるのでは?
  • よりフラットな組織構造の方が適しているプロジェクトもあるのでは?
  • 成果主義とは違ったインセンティブの設計が必要なのでは?

こんな問いかけに対して、本書では、我が家もLA在住時に良くお世話になった「ホールフーズ・マーケット」(オーガニック食品中心のスーパーマーケット)や、ゴアテックスで知られるW.L.ゴア社、そしてグーグルのユニークな経営管理の事例を紹介して、従来のやり方に囚われない、次世代の経営のあり方を示唆しています。

どれも一見すると常識外れで、同じことを自分の会社でやっても無理!と断じてしまいがちですが、じっくり考えてみるとそれぞれの根底に共通して流れている考え方に気付きます。

p.76 あなたのこれまでの人生で、仕事が最も楽しく感じられ、最も生き生きと仕事に取り組めたのはいつだろうか。・・・その経験の具体的な中身が何であれ、そこには共通の目的に身を捧げていることで結ばれた人びと、資源が足りないからといって諦めたり、専門知識がないからといってやる気をなくしたりはしない人びと、手柄がどのように配分されるかではなく一緒に何を達成できるかを気にかけている人びとがいたにちがいない。要するにあなたはコミュニティの一員だったのである。

そして、ウェブの世界で急速に浸透している潮流(ウェブ2.0的な思想)に触れながら、こうした発想が次の世代の経営モデルを考える上でのヒントになると指摘しています。これは僕が社内SNSを通じて少しずつ感じている社員の意識変革の方向感とも合致するものであり、とても共感できました。

p.325 ウェブは人間がこれまでに生み出したどんなものよりもハイペースで進化してきたが、その大きな理由はそれが階層構造ではないことにあった。ウェブはすべてが周縁であって、中心は存在していない。その意味で、それは人類の歴史が始まって以来ずっと主流を占めてきた組織モデルに、真っ向から対抗するものだ。

p.327 インターネットはなぜこれほど適応力があり、革新的で、人びとを引き寄せるのであろう。それは次のような理由による。
・すべての人に発言権がある。
・資格や肩書きより能力がものを言う。
・参加は自主的である。
・唯一のヒエラルキーは「自然な」ヒエラルキーである。
・決定は仲間の間でなされる。【14のうちの5つを抜粋】

これは21世紀の経営管理システムの詳細な設計仕様ではないとしても、大きくかけ離れたものではないと私は思う。反論していただいても結構だが、私はマネジメント2.0がウェブ2.0にきわめて良く似たものになるという見方に喜んで賭ける。

最後に、この言葉で本書は締めくくられます。

p.329 今こそ、人間の自発性や創造力や情熱を本当に引き出し、尊重し、大切にする21世紀の経営管理モデルを築くチャンスなのだ。ぜひそれを行っていただきたい。そうすれば、そこにはきわめて人間的で、行く手にある途方もない機会をつかむ用意が十分にできた組織が生まれているはずだ。

巷に溢れる経営本やMBA的なテキストとは完全に一線を画したこの本、会社の経営層や経営企画部等のスタッフはもちろん、特に数値目標を背負わされて第一線で汗をかいている中間管理職にぜひ読んでもらいたい一冊です。

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ロサンゼルスMBA生活とその後